素敵な失恋の方法を教えます
五徹目である。もう一度言おう、五徹。おれはこの五日間、一睡もできていないのである。ただでさえ冬場の遊郭は忙しい。月行事も含め宴が多く、また寒さで人肌恋しいのか客たちは足繁く通う。お前らからすりゃ一対一だろうがうちの子たちにとっては多対一なんだよチクショウ休ませてやれよ。ついでにおれもな!
先日の虚言女の一件から、探し人はその時限りの容姿だった可能性にいきついたキングは索敵範囲を大幅に広げさせた。実働部隊はお!れ!だけどな!! クソ、そうならないように誘導してたのに。やっぱ楽しようとするのはよくないな、裏目に出てしまった。
「おー、ぉおう……コハクやつれたなァ」
「あはははははクイーンの旦那ってばアハハ……そう見えますぅ?」
「ああ、なかなか酷いぜ……?」
おれなんかに1ミリも興味無いクイーンの旦那でさえ気づいて声をかけてくださるのにあんちくしょうときたら。部下を大事にしない上司ほど最悪なモンはねぇな。反面教師反面教師〜。
「あの変態野郎も諦めが悪い……いっそこっぴどく振られりゃいーのに」
「…………!!!!!」
突然動かなくなり無言で凝視してくるおれをクイーンの旦那は不審に思っただろう。目の前で手をパタパタ振っている。だがおれの意識はもうそこにはない。天啓を得た。一度、振られる……? それだー!
お客様を全員お見送りし、芸者から遊女に至るまで全員の様子を確認した後、おれは部屋に引きこもった。行く道中色んな奴に白湯だのお香だの押し付けられたが、おいおい、寝るわけじゃないぞ? まだ仕事は残ってるっつーの。引きこもるのはこれが誰かに見られては終わりな作業、即ち運命の花嫁案件だからだ。逃げ回るだけじゃなく、こちらから行動を起こすことでこの茶番を終わらせてやる! そしたら晴れて自由の身!!
さて、一概に振る──あなたが手を下すまでもなく私は死にますよアピール──とは言ってもどうするか。直接会うだなんて当然アウト。天命を待ってやるような優しさがキングにあればおれは五徹なんてしない。電伝虫? いや、裏声にも限界はある。「運命の花嫁イコールおれ」なんて方程式は確かに正解だが、誤答扱いしないとならないのだ。おれの生存のために。
机に突っ伏してしばらく考える。あ、やばい。眠りそう。せめて朝日が目に入るようにとぐりんと横を向けば、おでんから預かった簪が目に入る。日光を浴びて、シャラシャラと光を反射するソレはなんとも美しい。飾り紐から軸の部分まで細かな意匠が施されており、しかし先端は非常に鋭利でこのように鉛筆持ちをすれば机に引っかき傷で文字を書けそうな……文字……
「てがみだ!!!」
ガバリと起き上がり叫んだ。そうだよ、どうして思いつかなかった!! おれの経歴がバレないように文は書かないようにしていたからかな! アハハハハハ!
そうと決まれば早速準備しよう。筆跡に出ないように訓練したが、崩し文字の書き方は忘れていない。だが使うのはかつてのおれやここで働く女たちに使っているものではなくどこにでもある普通の紙と筆。上等な和紙は案外バレる。流通先が限られるから、卸業者から辿れば一発だ。だからこそ、市井に出回る安価な紙で、墨も一般的な消耗品で。
・・・・・
探し回られてると聞き、もしや、と思いました。
あの日は常と違い、お客様のご希望で髪色を変えていたものですから私事と思わず……ご無礼をお許しください。私は数年前に年季が明け、市井にくだりました。ですが病にかかり、もう先は長くないのです。本来ならば私の方からお目通りするべきところを、このような形にしてしまい申し訳ありません。
貴方のような貴人に探していただけたこと、大変光栄に思います。ですが、私のことなどどうかお忘れください。
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うん、まあこんなもんでいいだろう。陰間界の花魁だった身としては和歌の一つもないとは嘆かわしいが相手はアイツだし別にいいや。あ、でも前科があるんだよなァ……。髪色のせいで気づかなかったくだりは“コハクが見つけられないのも無理はない”という状況にするためのものだから抜きたくないが……。うーん、…………あ! 運命の君しか知らない情報出せばいいんだ!
でも容姿に関することをあげて、万が一おれに読み上げを命じたなら、"おれ"まで抹殺対象だし……でもそれ以外にあの日の女であることを証明する方法なんて……
「…………『烏天狗様へ』。うん、これだ、これだよ!」
おれがアイツに与えた
全て書き終えたら蝋を垂らして封をする。あとはこれをキングの元へ届けるだけ。おれがアイツの手駒となって運命探しをしているのは周知の事実だし、大看板を務めるアイツに直接届くことはありえないから不自然ではない。どの飛脚が運んだ問題は出るにせよ、知ったことか。どの道毎日大量の飛脚がウチの女たちへ文を届けてんだ。そこに混じってたってことにしよー。
やっとこの苦行の日々から解放される。そう思ったおれは安心して文を一度しまった後──ぐっすりと、眠ってしまったのだった。
目覚めたのは時計の短針が360度と少し回った頃。滞りまくった仕事に悲鳴をあげたのは、言うまでもないだろう。
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