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「資料?あなたたち、トルソーの担当じゃないでしょう」


トルソーチームのリーダー、下口上等は私達を見るや否や、指をさしながら耳の痛い言葉を次々と浴びせたきた。例えるならそれは…罵倒に近いものだった。

平子班に水を開けられて焦っているのか…自分達の仕事を横取りするのか…等々。

ハイセさんが必死に班員に迫る危険を伝えたところで "そもそもの原因はあなたにあるのでは" の一点張り。その忌々しいまでに強気な態度を、下口上等は決して崩そうとはしなかった。

(…頑固だ。)

その態度に正直私は不快感を覚えたが、それでも真剣に話をしようとするハイセさんを見て…とてもじゃないが、反論する気にはなれなかった。

「私の管理不行届きは仰る通りです…貴重な資料をただ見せろというのが、横暴というのも承知しています…しかし」

それだけ言うと彼はその場で、バッと深く頭を下げ…

「…私の至らなさで…部下を危険に晒したくはありません…ッ!」

下口上等に、必死に懇願した。

そんな彼に対し、あからさまに嫌な顔をする下口上等は、そのまま軽く舌打ちし、追い打ちをかけるように沈黙した。

それでもハイセさんは、引き下がろうとはせず、深く深く頭を下げ続ける。

自分の部下を思い、ここまでする彼の姿を見て…私はただ見ているだけの自分が、何だかとても情けなく思えてきた。

「…し、下口上等ッ!お願いします…!」

私は、ハイセさんの横に立ち彼と共に深く頭を下げた。…私の行動に驚いているのだろうか。横にいる彼の体が少し、揺れたような気がした。もしかしたら、勝手な行動をするなと、怒っているかもしれない。それでも私は、ハイセさんと共に頭を下げることを決して間違いだとは思いたくなかった。


「はあ〜〜〜…

 頭下げればどうにかなると思ってんのかよ」

そんな私達へと返されたのは、下口上等の長いため息と、容赦ない言葉の数々だった。

「耳にしますよ、あなたと、あなた達のこと。まあ…特に"あなた"…ですかねえ…

 佐々木一等。"まともな捜査官でない人間"に、そんなことされてもね。」

吐き捨てられた言葉に何も返せないまま、捜査があるのでと立ち去る、下口上等の足音だけが私達の耳には残った。

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「…先生、なまえちゃん」

「か…カッコ悪いなあ…カッコ付けて頭下げて断られるやつ、カッコ悪いなあ…はずかしい」

地面にへたりこみながら肩を落とすハイセさんを、逆にカッコ良かったです!!なんて六月くんが彼なりに励ます声が聞こえた。2人がそんなことを話している中、私はなんだか…気の抜けてしまった人形のように、そのままそこに座り込んでしまった。

(まともな捜査官でない、か…)

解かれた緊張の中で、それだけが何度も私の頭の中で木霊する。あの言葉を浴びせられた彼のことを思うと、私の中で怒りと悔しさ、そして悲しみ。色んな気持ちが混ざり合い、気が付けば私の頬をスッと冷たいものが伝っていた。

「…え、ええっ、え!?なまえちゃん!?…ご、ごめんッ!一緒に頭まで下げてもらっちゃって…あー怖かったよね…ごめんね…」

「…やっ……も、…そ、そうじゃなくて…」

上手く伝わらないこのもどかしさを、どうぶつければ良いのか分からなかった。

「私……悲しいんです…あんな嫌な言葉、…もう誰にも言って欲しくない…!」

グズグズと鼻をすすりながら、あの場面を思い出すとまた涙が溢れ出てきてしまう。

一体、彼が何をしたって言うんだろう?悪いことなんて、何にもしていないのに…あれはただの意地悪で、嫌味で、もう侮辱でしかなかった。頭を切り替え、そう考え始めると次第に私の中で、下口上等への怒りが湧いてくるのをフツフツと感じた。

「…なまえちゃん」

そんな私の肩をポン、とあたたかな手が触れた。…優しくて強い、ハイセさんの手だった。


「…ありがとう」


ハイセさんはそう言うと私の涙を、コートの袖でゴシゴシと拭ってくれた。…そこはハンカチじゃないんですか…とくしゃくしゃな顔で反論すると、また少しだけ笑われた。何だか彼のそんな表情を見れただけで、私が泣いたことは間違っていなかったのかな、なんて思えた。

「…よし。資料はなくても、捜査経過の報告書なら本局にあるはずだ。…何とかするよ…!」

グイッと私を地面から立ち上がらせると、彼は何か決心したようにCCG本局へと向かった。

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千年続く、幸福を。