運命(煉獄杏寿郎)

※現パロ


「合コン行こう!!!!!」
「えっ?」

友人が彼氏と別れた。
理由は私からすればくだらないところからのすれ違い、からの男の浮気。
可愛らしい友人の口からスラスラと述べられる罵詈雑言、愚痴のパレードからは相手の男が結局どうしようもない奴だったということしか分からなかった。
そんなくそ野郎にこの友人は勿体ないとしか思えない。
しかし彼女は、夏前から付き合っていた頃思い出もあり、どこかまだ心残りがあるのだろう。
まあ、彼氏などいたことのない私からすれば良く分からない感覚だが。
男は今、浮気相手の女と揉めている。馬鹿か。
そんな彼女の愚痴にしばらく付き合い、時間が彼女の心を癒やすだろう、と思っていた矢先。
え、なに、合コン??

「あのくそ野郎見返すためにイケメン捕まえるっ!!」
「傷心中に大丈夫??変な男につけ込まれない??」
「大丈夫!今週末授業4限まででしょ?その後の時間にバイト先の先輩がセッティングしてくれたの、行こう!」
「バイト先塾だっけ?」
「そう、真面目な人集めるって言ってくれたから大丈夫な方だと思うよ」

私が偏差値のそこまで高くない大学に進学してしまったからか、進学してからというものの、高校の時の恋愛とは異なりかなり自分の欲望に忠実な男が周りに多いように思う。
大学デビューを果たそうという人も多い。
そんな中で距離感を見誤った男も誕生してくる。
かくいう私もストーカーチックな男に半年近くつきまとわれている。止めて欲しい。
あらゆるSNSをブロックし、目も合わせないのにまだ諦めてないらしいから気をつけろと言われた時には何事かと思った。私は貴方が嫌いです。
まともな人に好かれても好かれているかどうかの境界が分からずに大抵気付かない。
そんな過程から残念ながら大学での相手探しは早々に諦めてしまった。
正直彼氏が欲しいと思うこともある。
ただ、人と関わり続けるのは疲れるし一人の時間も好きなので尊重しあえる人でないと友達ですらいられない。
そしてそんな精神年齢の高い男は周りにいない。
はい、終わった。
そう言えば、と高校時代に個別指導の塾で担当してもらっていた先生を思い出す。
同じ話をしたときに君ならいつかいい人が見つかるさ、と励ましてくれた。
見た目こそ長髪の金髪と派手ではあったが誰より熱心でいい人だった。
彼が教えてくれたようにいつかそういう人に会えるかもしれない、という期待は今も少しある。

「良いよ、ただ二件目はやめとくね」
「全然大丈夫!ありがとう!!」


4限終わり、他にも誘った友達を含めた数人でお手洗いの鏡の前に立つ。
念入りに化粧直しをする友達の横で適度に身だしなみを整えた。
正直眠くてたまらないが楽しそうな友人を見ていると少し嬉しかった。
件の彼女は好みがチャラい系の人が好みであるせいかよく悪い男に遊ばれた。
性格が素直な分尚更だ。
今回もそうならないように守ってあげなければ、と謎の決意を固めた。



待ち合わせ場所に行くとこちらと同じように数人の男性がいる。
その中に見覚えのある金髪が見えた。
惚けている間にも着々と話が進んでいく。
確信を持ちきれず声をかけるか迷っていると隣にいた友人がこそりと声をかけてくる。

「あの金髪の人狙うの?」
「えっ」
「すっごい見てたからさ、分かりやすすぎ」

ニヤニヤと笑みを浮かべながら聞いてくる。
狙っていたわけではないのだが…

「多分高校の時に塾で教えてくれてた人なの」
「えっ、あのイケメン!?」

イケメン、そうか、確かに端から見たらそうなのかも知れない。
ずっと先生だったせいでそう言った目で見たことはなかったががたいも良く、綺麗な顔つきだしラフな格好もかなり似合っていてオシャレだ。

「ふふふ、任せといて!」
「えっ、何を?何を任せるの??」

嫌な予感がする。




元々こういった場所に慣れている訳ではない私が器用に主張出来るはずもなく、あれよあれよという間に先生と向かい合わせの席になった。
こういうことを任せたかった訳じゃない。そうじゃないんだ。
ただ、彼女は彼女でお目当ての人を見つけたようで楽しそうだ。

「えっ…と、煉獄先生、ですよね?」
「あぁ、久しぶりだな!元気そうで良かった」

グループ内のそれぞれが会話を始めたところで先生は笑顔を向けてくれた。
変わらないそれに酷く安心する。
忘れられていた訳ではなかった。

「忘れられてたかと思いました」
「いや、忘れていたわけではないぞ!
ただ、あまりにも綺麗になっていたから一瞬誰か分からなかったな」

あまりにも自然に褒められ、鼓動が早まる。
先生はそんなつもりはないのに意識してしまう恋愛経験のない自分が恨めしい。

「恋人は出来たか?」
「出来てたらこんな所に来てませんよ!」
「それもそうだ!俺も恋人はいないしな!」

昔話した内容を先生も覚えてくれていたのだろうか。
自分だけが覚えている思い出だと思っていたが、そのことに少し嬉しくなる。
先生も彼女がいないからこういう場所に来たのだろう。何となく意外だったが人数合わせで付いてきたと聞いて納得した。






「私はもう少し残るけど、帰る?」
「うん、帰ろうかな」
「もう遅い、送るぞ」

友人が気を遣い声をかけてくれたタイミングで先生に話しかけられる。
当たり前のように隣に立ち、送ろうと言う先生を見ながら随分となれているのだと言いようのない思いが湧き上がった。

「いや、一人で帰れま「じゃあお願いします!!」ちょっと、」
「あぁ、任せろ」
「いや、あの、」

断ろうと思っていたが、断る間もなく友人に送り出され取り残された。
外に車を止めているらしく駐車場まで歩く。
先生がお酒を飲んでいなかった理由が分かった。
止められた車の助手席に乗せて貰い夜道を走る。

「わざわざすみません」
「気にするな、当然のことだ」

当然のこと、先生はこの助手席に誰でも乗せているのだろうか。
きっとそうだ。
先生は優しいから誰にでもこういうことをする。
私だけが、特別なわけではない。
勘違いするべきではない。

そうこうしているうちに自宅の前につく。
そう遠い場所ではなかったので良かったが辺りは真っ暗だ。

「今日は楽しかったです、ありがとうございました!」
「俺も楽しかったぞ!」
「先生と席が近くで良かったです」

そう言った瞬間先生の顔が固まった。
眼光が鋭く光った気がしたが直ぐに見慣れた笑顔に戻る。

「君は何というか、カカポのようだな!」
「えっ、何ですか?」
「カカポだ」

丁寧に言い直してもらってもその言葉に聞き覚えはない。
何かのキャラクターだろうか?

「世界最大級のオウムだ、可愛らしいぞ」
「オウム、え、私オウムに似てますか?」
「いや、性格が似ている」
「性格」
「警戒心がなく、人が好きで人に近づいたら狩られて絶滅しかけたオウムだ」
「絶滅しかけた、オウム」

先生が今まで浮かべていた笑顔が一瞬消える。
妖しく光る紅の瞳を見て少しゾッとした。
ゆるりとまた笑みを浮かべたが先程までとは違う、まるで、獲物を見据えるような、

「警戒心をもう少し持つべきだな、狡い男に取って喰われてしまうぞ」

そう言って先生は距離を一歩近づける。
鮮やかな赤に魅入られて体が動かない。
去年までは決して触れることのなかった指が頬を撫でる。
途端に熱に当てられて頭がクラクラした。

「せん、せ」
「君は何時まで俺のことを先生≠ニ呼ぶつもりだ?」

太い指が頬を滑りうなじに回り逆の手が腰に添えられ抱き寄せられる。
その瞬間、痺れるような感覚が全身に走った。
鼓動が酷く早い。
顔に熱が集まっている。
思考が上手く廻らない、どうしたら良いのだろうか、この人は、何を、したいのか、

熱を持った唇が触れた瞬間、金縛りにあったように動けなくなった。
それと同時にこのままでいたいと思う自分がいることに気付くのに時間はかからなかった。




運命は思うより近くにいたのだ。