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04/25
世間知らずの悟くん
「なあ傑」
二人でぐだぐたとだべっていると、不意に真剣な顔をした悟に名前を呼ばれた。
「俺の許嫁の話したよな」
「ああ、悟がベタ惚れの可愛い子ね」
悟には許嫁がいるらしく、事あるごとに自慢話をされるのだ。ただし写真の1枚も見せず、曰くもったいないのだとか。

「今度許嫁記念日何だけどさ」
「ちょっと待って、何その記念日。初めて聞いたよ」
「はあ?彼奴と婚約出来た日普通祝うだろ」
「…もういいよ。で、続けて」
さも当然というように許嫁記念日と言った悟に面食らったが、ここに食いついていては一向に話の展開が分からなくなってしまう。気になる気持ちに蓋をして悟に話を続けるように促した。

「欲しい物聞いたら左手の薬指って返ってきて」
まあ婚約期間が長ければ、早く結婚したくなるのかもしれない。
「だから切り落とせばいい?って聞いたら殴られたんだけど意味わかんねえ」
「私でも殴るかな、それは」
デリカシーも無ければ常識もないのか。
「なんでだよ!」
左手の薬指の意味を私の口から話していいのか迷ったが、流石にこのままだと許嫁の人が可哀想だと思い教えてあげることにした。

「結婚指輪をはめる指は一般的に左手の薬指とされていて、恐らく君と早く結婚したいと伝えたかったんだろうね」
「は、何それ、知らねえし!」
ぽぽぽぽっと顔を赤くした悟が吠えた。小さく結婚と呟いていることから頭の中は許嫁のことでいっぱいなのだろう。
「そもそも何故左手の薬指かというと」
「そういうのいいから!傑!結婚指輪って何だよ」
話を遮られむっとするも許嫁のことしか考えていない悟に何を言っても無駄と判断した。
「説明が難しいけれど結婚した証明みたいなものじゃないかな。一般的に給料3ヶ月分の指輪を贈るとされているけど」
悟の場合はやりすぎだろうね、と続けた言葉は悟の耳には入っていないだろう。大急ぎで談話室を飛び出したのだから。

┈┈┈
「ほら」
緊張半分、不安半分で給料3ヶ月分の指輪を渡す。
よく分からなかったけれどショップの店員が色々と教えてくれたことで、無事買うことができた。
普段なら誰かの言葉を参考にとかはしないが、此奴を喜ばせたかった。

「えっと、悟さん?」
「ん、結婚指輪」
確か傑が片膝をついて手を取るんだって話していた。言われた通りにすると普段余り照れたりしない此奴の顔が赤く染まるのがわかった。
指輪のサイズも丁度よさそうだ。

「これで俺とお前は許嫁じゃなくて夫婦だかんな!」
「ふふ、はい旦那様」
此奴に旦那様と呼ばれむず痒い気持ちになる。嬉しくて照れ臭くて、漸く此奴が俺のものになったのだと思った。

後日、傑に話すと指輪をはめただけでは夫婦にはなれないのだと言われた。最初からそう言えよ。
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