ぽんこつ

マイキーは普段面倒を見てもらう側である。兄の真一郎しかり、右腕のドラケンしかり。時には妹のエマにすら世話を焼かれる始末である。
しかしそんなマイキーですら、面倒見ざるを得ない人物がいる。


「ぼ、僕ぅ?おじさんね、この近くに住んでるんだけど遊びにおいでよ。美味しいケーキもあるよ」
「いいの?ケーキ食べたぁい!」
「山田?オレ言ったよね。知らねえヤツに着いて行くなって」
この山田と呼ばれた少年こそ、マイキーの手を焼かせる人物なのだ。
今回のように怪しい人に声掛けられても、疑うことをせずに二つ返事で着いて行ってしまう。今の山田には「ケーキ」しか頭にないのだ。

「マイキー!!で、でもケーキくれるって!」
「はぁ。もう山田は黙ってて」
ケーキの誘惑に思い切り釣られている山田に呆れたようにため息を零すと、不審人物に向き直る。
「で、オッサン何?」
「ひぇっ!ご、ごめんなさい!!!」
慌てて逃げ出す男を見遣り、その様子から再犯は無いと判断したマイキーはもう一度山田の顔を見た。
山田は悪戯が見つかった子供のようなバツの悪そうな顔でマイキーを見ていた。

「タロ、お前マジで学習しないよね」
「変な人じゃなかったもん。ケーキくれる優しい人だもん」
「はいはい。じゃあオレとケーキ食べに行こうね」
結局、この馬鹿で可愛い子は自分が守ればいいやと思ってしまうマイキーであった。


太郎山田は中学二年生である。
成長期が来ないのか、158.7cm(本人は160cmだと言い張っている)しかないため小学生に間違われる事が多々ある。そして変な人に誘拐されそうになることも多々ある。だが一般的に誘拐というともっと幼い子がされるイメージだが、山田は何故か目をつけられやすかった。
クリクリとした真ん丸お目目に赤らんだ頬、柔らかそうなふわふわの髪が年齢(というか身長)よりも幼く見えているのだろう。
だがこのナリで喧嘩は強い。東京卍會の創設メンバーは伊達じゃなかった。創設メンバーの中では一番の末っ子であり、他のメンバーもお兄ちゃんぶりたい年頃だったので、それはもう可愛い可愛いされていた。
ちなみに場地が留年した際、三ツ谷は泣いたが山田は同級生が増えたと喜んでいた。場地の何とも言えない顔を見て、あのマイキーですら同情していた。


「マイキーあのね。今日保険の授業でね、ちゅーしただけじゃ赤ちゃん出来ないって習ってね」
カフェでニコニコとケーキを食べながら山田が話す。
「圭ちゃんとこの前ちゅーしちゃったから、おれすごい安心したんだ」
「は?何場地とちゅーしてんの」
キスだけで子供が出来ると思い込んでたことを揶揄おうとしていたら、とんでもない爆弾を落とされた。
「アイスくれたから!」
「(場地殺す)オレともするよね」
「圭ちゃん以外とするなって言われたけど、ケーキ買ってくれたしなあ。いいよ!ちゅーしよ!」
場地が予防線を張ったようだが、山田のチョロさの前では無駄である。マイキーは場地の努力を嘲笑した。

向かい合って座っていた二人だが、マイキーが山田の横に移動してちゅっちゅちゅっちゅし始めた。
山田は照れるでもなく、くすぐったそうにキャラキャラ笑うためムッとしたマイキーだったが、山田が楽しそうだからいっかと気持ちを切り替えた。

「マイキーィイ?楽しそうなことしてんな、オイ」
ドラケンがマイキーの頭を鷲掴みにして睨みつける。窓側の席だったため、外から丸見えだったのだ。
「ケンちゃん!」
「タロ、お前イヤなことはイヤって言えよ」
ドラケンはそこまで言ったあとテーブルの上に置かれた皿を見て「甘いもので買収されたな」と思った。
「最初はオレじゃなくて場地だからな!」
ドラケンの腕を外してマイキーが吠える。
「は?場地?タロお前何場地にまで唆されてんだよ」
「そそのかされてないもん!圭ちゃんおれにアイスくれたし」
「お前なァ…」
ドラケンが頭を抱えてしまった。場地だから(良くないが)良かったものの、マジでオッサンとかにも触らせそうで怖い。

ドラケンは二人の前に座るとメニュー表をサッと山田の前に出した。
「で、何食いたい?」
「ケンチン!」
山田がチョロいままなのはコイツらのせいであるのは言うまでもない。




┈┈┈

稀咲鉄太は東京卍會にどう取り入ろうか悩んでいた。ドラケンの立ち位置に滑り込むのもいいが、山田は幹部全員の弱みでもある。
そこまで考えて、稀咲の狙いは山田になった。

山田の死因は交通事故にしよう。
人目につかない路上で車が来たら適当な人間に突き飛ばさせる。
稀咲はニヤリとほくそ笑んだ。


山田とその後ろには稀咲が買収した不良。
街灯も少なく、人通りも無し。そしてトラックの近づく音が聞こえた。
「(今だやれ)」
心の中で不良に命じる。それが通じたのか不良が山田の背中に手を伸ばす。

「あ、たんぽぽ」
急に山田がしゃがみこんで路肩に生えていたたんぽぽの綿毛をむしり取る。
不良の手はスカッと空を切った。
「(チッ運の良い奴)」
稀咲はそのまま撤退を指示した。

別日にもまた同じ作戦を行うも、今度はセミの抜け殻を見付けヒョイと避けた。
また別の日には靴紐を結び直すために屈んだために避けられた。
ここまで作戦が上手くいかなかったことが無かったため、稀咲は自らの手で山田を殺ることにした。

相変わらず気の抜けた面で信号待ちをする山田の後ろから稀咲が忍び寄る。
丁度いいタイミングで車が走ってきた。今だ、稀咲が手を伸ばそうとした瞬間、山田が振り向いた。
「え、何きみ。ハイタッチ?」
いえーい、と稀咲が伸ばしかけた手に自分の両手を当てる山田。ピキリと稀咲の青筋が音を立てた。
そうこうしているうちに車は走り去り、稀咲も姿を見られてしまった。

「あ、いや。これやる」
持っていたお菓子を押し付けた稀咲は、そのまま逃げるように去っていった。実はそれは業を煮やした稀咲が、最悪道路にお菓子を投げ捨てれば山田が飛びつくのではないかと考え用意したものだが我に返ってやらなかったものだ。
「いいの?ありがとう!!!」
後ろ姿の稀咲に大声でお礼を言う山田。それに少しの気恥ずかしさを感じたが、頭を振ってその思いを追い出した。



それからというもの、稀咲は山田に懐かれた。
「あ!こないだのお菓子の人!」
と駆け寄ってきて尻尾をブンブンふる幻覚すら見える。執拗く名前を聞かれ根負けして教えると、それからは「鉄ちゃん」「鉄ちゃん」と呼んでニコニコ笑いかけてくる。
そのせいで東卍の連中には睨まれ、取り入る隙もなくなった。
しかしこうなっては作戦変更だ。山田を手駒にすれば東京卍會を乗っ取ることも容易くなるだろう。稀咲はそう考えた。



「鉄ちゃんあのね」
「鉄ちゃんすごい!」
「鉄ちゃん見て見て!」
「鉄ちゃん鉄ちゃん!!」
山田は稀咲の頭脳を見なかった。かつて神童と謳われた稀咲をただの稀咲鉄太という男子中学生として扱った。
山田を手駒に、そんな計画はいつからか崩れ始めた。使い捨てるには惜しいと思ってしまった。
山田は稀咲が悪いことをしようとすると、そっと別の道を進めてくるのだ。今まで真正面から自分の行いを咎められたことがなかった稀咲は、それはもう腹が立った。しかし稀咲が何度道を誤っても毎回咎め、その手を離さないのだ。

橘日向への想いが薄れると同時に、太郎山田への執着が強まっていった。
太郎山田といる時間が何よりも楽しかったのだ。
山田と親しくなって長内とは即効手を切った。
「東卍に入ろ!愛美愛主よりきっと楽しいよ」
と誘われたからだ。
山田は学校帰りに食べるハンバーガーの味や、ゲーセンの取れないUFOキャッチャーの楽しさを教えてくれた。今まで誰も稀咲に教えてくれなかったものだ。

「山田だけは絶対誰にも渡さない」


✼✼✼✼
┈┈12年後

武道が家でゴロゴロしているとあるニュースが耳に飛び込んできた。
「──犠牲者は数名、内死亡者2名。死亡したのは橘直人さん25歳、そして橘日向さん26歳──」
橘日向、武道が中学時代に付き合っていた女性だ。
東京卍會の抗争に巻き込まれて死亡。
今まで彼女のことを忘れていたとは思えない程、ショックだった。

そしてその後、武道は電車に轢かれタイムリープすることになる。


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「これ盗んじまおう♡」
「え!?」

「あっ!圭ちゃん!虎くん!!」
「「タロ!?」」
「二人も真一郎くんのお店見に来たの?」
「真一郎くん?」
「あー、一虎は会ったことねえか。マイキーの兄貴だよ」

「お前ら人の店の前で何してんだ?」