メイド喫茶で働いてたら、弟が友達連れてきた

「おかえりなさいませ、ご主人様♡」

フリフリのメイド服を着こなし、客を出迎える。
そうここはメイド喫茶。しかもただのメイド喫茶ではない。男の娘専門、女装メイド喫茶なのだ。

誤解のないように言っておくが、俺にそんな趣味はない。金が欲しくて仕方なく働いているのだ。

俺の入学した大学は5月に文化祭が行われる。
そこで俺たちのクラスは男女逆転カフェをやることになった。俺は死んでもやりたくなかったのだが、女子達の団結力は凄まじく拒否権なんてなかった。
それで文化祭は大成功。1年ながらに校内一の来客数だったらしい。
俺はといえば女装しながら流れ作業のようの客を捌いて、時にシバいて、きちんと役目を果たしていた。そんな折に興奮気味の女に話しかけられ、今の店にスカウトされたのだ。まあその女こそが店長なんだけど。
勿論断ったが、その場で時給交渉が始まって2500円まで払うと言われてOKしてしまった。

そういうわけで俺はこの店で働いている。
時給に釣られたとはいえ、別に俺は守銭奴ではない。俺には弟妹がいるから学費の足しになればと思ってのことだ。特に弟はあらゆる才能に溢れている。金がないという理由でその可能性を潰す訳にはいかなかった。
だから週4、5時間で働いているのだが、これがもう稼げること稼げること。
この店ではメイド喫茶には珍しく指名制度がある。とはいうものの、別途指名料がかかるため指名が入ることは珍しいのだが俺につく客は毎回俺を指名してくれるのだ。だからそれだけでも結構な額を貰うことができる。


「はるちゃんちゃーん、ご主人様がお呼びよー!」
「はぁい」
はるちゃんちゃんというのは俺の源氏名だ。小野寺だからはるちゃんちゃん。奇を衒うと俺が覚えられないから単純でいいのだ。

「お待たせしました、ご主人様♡」
「兄貴?」
「案外似合ってんな」
「はるちゃんちゃん可愛いじゃん」
…は?


弟が友達を連れて来やがった。俺弟にこの店のこと言ってないのに。言うわけないし。
「ひ、人違いじゃないですかぁ♡」
必死に誤魔化すしかない。これでもコイツらからは慕われてたんだ。こんなことで信頼を失うわけにはいかない。

弟の隆が俺の手を取る。お触りは禁止ですと言うべきなのか、いやでも弟に言うのは気まず過ぎる。
「この爪の形、黒子の位置、やっぱ兄貴だろ」
「三ツ谷…流石にそれは引く」
ケンの言葉に俺も頷く。黒子の位置はともかくとして、爪の形ってなんだよ。

「はるちゃんちゃんスカートの下どうなってんの」
唐突に万次郎がスカートを捲りあげてきた。
「万次郎!この馬鹿!金とんぞ」
「やっぱ小野寺じゃん」
ニンマリと笑った万次郎にしてやられた。
短パン履いてるから見られても別に構わないが、万次郎は隆とケンに殴られていた。

「もうお前ら帰れよ」
「やだ」
万次郎が即答しやがる。
「隆何でコイツら連れて来たんだよ」
「一人でここに来る勇気はなかったわ」
隆の言葉に納得してしまう。俺も客側だったらその勇気はない。

「はぁ、んで注文は?」
「オレはアレがいい」
万次郎が指さしたのは【にゃんにゃん幸せのオムライス】だ。担当したメイドが猫耳を付けて接客するまでがセットの人気メニューである。
「それ売り切れ」
「こらはるちゃんちゃん!ご主人様にウソはダメでしょ」
後ろで様子を見ていた店長に怒られた。最悪だ。何が良くて知り合いの前で猫耳メイドを演じなきゃならないのだ。

「じゃあオレこれで」
ケンがメニュー表から選んだのは【愛たっぷりのラブラブチョコパフェ】である。
「下手なことは言わない。やめとけ」
「はるちゃんちゃーん?」
店長の視線が痛いが、こればっかりは仕方ない。
「ケンだって俺なんかにあーんされたくないだろ」
そう、このパフェは必ず一口目をメイドが客に食べさせる決まりなのだ。
「や、別にいいけど」
「少しは嫌がれよぉ!」
抵抗もなくあっさり決めたケンに思わず項垂れる。
だがここで食い下がると時給を下げられる恐れがあるから大人しくオーダーを受けるが。

「兄貴、オレはこれにする」
「駄目絶対やだ」
【皆には秘密だよ♡恋するハンバーグセット】はキスマ付きのソロチェキが貰えるのだが、このキスマークはその場でつけるのだ。
弟の前でそんな醜態晒したくない。いやもう色々と手遅れだが。
「他のにしようよ、ね?隆ぃ〜」
「これで」
意地悪く笑った隆は頑なに注文を変えない。店長にせっつかれて厨房にオーダーを通す。



は?そのあとどうなったか?
言うまでもない。マジでメイド喫茶満喫してチェキ撮って帰りやがった。
「今度は場地とパーと一虎連れてくるわ」とか言い残して。
だがまあそのメンバーならからかわれることはないから、別にいい気もする。いや一虎はダメだわ。
「はるちゃんくんなんでオレに内緒で他の男に媚び売ってんの」とか平気で言う。自分でいうのもアレだが、一虎は俺への執着が強すぎる。俺の(石頭)のお陰で殺人を犯さずに済んだから、感謝だかの感情が激重になってるんだと思う。

何があったか簡潔に言うと、一虎&ケイスケが真一郎くんの店に泥棒に入る。真一郎くんと俺に見つかる。俺殴られる。頭皮が切れただけの軽傷。という俺の石頭伝説が更新される事態となっただけだ。警察には「普通は頭蓋骨骨折してるよ」とドン引きされた。
一虎は捕まったけど、大した怪我人もなし、真一郎くんも被害届を出さないとのことですぐ出てこられた。それから俺に激重感情を向けてきたのだ。
どうせ好きな子が出来たりしたらそれも無くなるだろうし、今のところは好きにさせているが。



別の日
「はるちゃんちゃん、ご指名よ」
「はぁい」
店長に呼ばれ向かった先には、ニコニコと笑う真一郎くんと無表情のイザナがいた。

「お前ら何の用だよ」
「はるちゃんのメイド姿見に来た」
「オレは真一郎の付き添い」
どうせここのこと万次郎が喋ったな。彼奴は昔から口が軽いから。
真一郎くんが女に振られたという話を10回は聞いた。多分もっと聞いてる。勿論毎回違う女だ。
「ほらもう見ただろ、帰れ。お帰りくださいませご主人様」
「それいいね」
能面みたいに無表情だったイザナが何かに反応した。こいつの琴線は昔から分からない。

「小野寺、もう一回言って」
「?お帰りくださいませ、ご主人様」
「小野寺今日からオレのメイドね」
楽しそうなイザナに口を挟めず、助けを求めるように真一郎くんを見ると名案だとばかりに目をキラキラさせていた。
「いや、ならねぇよ?」
「なんで?」
そんな当然のように聞かれてもな。


「はるちゃんのオススメは?」
席に通すとメニューも見ずに真一郎くんに聞かれた。
「はるちゃんちゃんが入れた水道水、1杯三万円でぇす♡」
早く帰れと思ってそう言うと、真一郎くんは「三万も持ち合わせあったか」と財布を取り出そうとするから慌てて止めた。なんで今日の真一郎くんはこんなにポンコツなんだ。イザナはメニューに夢中で全然真一郎くんの様子に気が付かないし。

「オレこれがいい」
イザナが指差すのは万次郎と同じオムライスで、血の繋がりはなくとも兄弟だなあとニマニマしてしまう。
「何?」
「別にぃ」
「オレはこれにするわ」
真一郎くんが選んだのはハートのストローのドリンクだ。メイドと一緒に飲めるというオプションがあり、顔が近くなると人気なのだ。
「真一郎くん分かっててそれ選ぶ感じ、ホントモテないよな」
「なんで!?」
少ししょげた真一郎くんをヨシヨシしながらオーダーを通す。
イザナも黙って頭を差し出してきたから一緒にヨシヨシしてやった。こういうところ本当に佐野家はずるいと思う。

帰る時にイザナが「次は鶴蝶連れてくるから」とか言っていたが、マジで止めてくれ。鶴蝶をこんな欲望まみれの店に連れてこないで欲しい。あの子はいい子のまま育って。不良だが。



===PROFILE===

名前 三ツ谷小野寺
所属校 東京明次大学
身長 164cm
体重 52kg
年齢 19歳
誕生日 1987年2月10日
星座 水瓶座
血液型 O型
通称 はるちゃん はるちゃんちゃん 小野寺
イメージ 水色がかった灰色
カラー
好きな物 猫、本
嫌いな物 虫全般
特技 怪我の応急処置
尊敬する人(憧れの人)
佐野真一郎
苦手な人(怖い人)
灰谷蘭

兄妹たちを大学まで行かせること
武勇伝(失敗談)
お触りしてくる客を実力行使で黙らせて店から表彰された。
お気に入りの場所
真一郎の店
ある日の日常
バイトしてたら天敵の灰谷蘭が来た。スカートの中に手を入れて来るから鳩尾を殴ってやった。その後、沢山貢がせて弟に回収に来てもらう。蘭は週1で来る。




おまけ

「はるちゃんちゃん♡」
「帰って♡蘭ちゃん♡」
「やだ♡」
中指を立てながら回れ右を促すも、勝手知ったる自分の店とばかりに空いてる席にどかりと腰を下ろす蘭。
「で、はるちゃんちゃんいつここ辞めんの?」
「辞めねえよバカ」
「オレんとこに永久就職しねぇの?」
「しない」
そう言うと拗ねたように蘭が頬をふくらませたが、こいつがやっても可愛くない。
「お顔がブスだぞ、蘭ちゃん」
「オレがブスなわけないじゃん」
「ホントお前、そういうとこまじでさぁ」
この蘭の自信満々なところは実は嫌いじゃない。少し生意気な歳下は俺のツボに刺さる。
平然とスカートに手を突っ込んでくるオヤジ臭さは超嫌いだけど。
「蘭ちゃん♡死んで」
スカートの中の手をぱちりと叩いて追い出すと、大人しく引っ込んでくれるからまだ今日はマシ。

「最近竜胆がさぁ、こそこそと出掛けてんだよねー」
肘をついて不機嫌そうに蘭が愚痴る。
「なに、彼女でも出来たん?」
「ぽくね?オレに言わないとかありえねぇんだけど」
なるほど、弟に隠し事されて拗ねてるのか。意外と可愛いとこあるんだよな、コイツ。
「最近竜胆とよく遊ぶけど、そんな感じなかったな」
「は?聞いてねえんだけど」
やらかした。竜胆のやつ、蘭に秘密にしてんならそう言ってくれればいいのに。そしたら話だって合わせんのに。
「オレとも遊ぼ」
「ご主人様との個人的なお付き合いは禁止されてるんですぅ」
「は?」
こっわ。思わず店長のほうに視線を向けるとサムズアップしてきたから、蘭ならいいよということだろうか。というかそうじゃないと俺の命が無い。

「蘭ちゃんだけ特別な?」
「オレだけ、特別…!」
さっきの怖い顔から一変幸せそうな顔しやがって。
適当な紙に連絡先を書いて蘭へと渡す。
「蘭からの連絡待ってるから」
「今する!」
手をもつれさせて必死に携帯を取りだし、真剣な顔でメールを作成している(ようだ)。見るなとの事で、俺は蘭が何してるかは分からないけど。
つまらなくなった俺は蘭のほっぺを突っついてみた。意外と弾力があるな。
「何でさぁ、そんな可愛いことすんの」
「えぇー、蘭ちゃんが俺のこともっと好きになるようにかな」
そう言うと蘭がテーブルに倒れ伏した。「しゅきぃ」とか呻き声が聞こえた気がしたけど、邪魔だからとりあえず竜胆を呼んどいた。


「兄ちゃんやめて!!!!!!」


秒で来た。