「ヘレン先生、この醸造する環境は明確に決められているんですか?」
「そうだね。ほらここを見てご覧」
「えーと『湿度が高すぎる環境では熟成が進みすぎてしまう可能性がある。また温度が一定ではない場所で保管すると、物質の相互作用により、効果が打ち消されてしまう。』こんな隅に大事なことが書かれているなんて!」
「ね、僕もそう思うよ」
時折、ハッフルパフの寮生、セドリック・ディゴリーはこのようにヘレンに勉強を乞うことがある。聞けばマクゴナガルが、どの学問においてもOutstandingを修めたヘレンなら複数の科目をそれぞれの担当教員に聞いて回るよりも、効率的に疑問を解消出来ると伝えたらしい。事実、ホグワーツを卒業して幾星霜経った熟練の教員よりも、体感では卒業したてのヘレンの方がありとあらゆる分野に精通していた。特にマグルでいう社会のような目まぐるしく変わるような科目もないため、ヘレンの空白の時間で大きく何かが変わることもなかったのだ。

「ヘレン先生、次のクィディッチの試合で僕を応援してくれませんか?」
「うん?構わないけど、きみを応援してくれる人はたくさん居そうだ」
「いえヘレン先生がいいんです。先生が応援してくれたら、それだけで僕は優勝出来る気がする」
ヘレンは教師らしい慈愛に満ちた表情でセドリックを見ると、暖かな声音で励ますようにエールを送った。
「ねえセド、きみに言われる前からきみを応援することは決めていたんだ。なんたって僕を先生と呼んでくれる数少ない可愛い生徒だからね」
「それじゃあ、もしジョージとフレッドがヘレン先生と呼んだら?」
少しだけ拗ねたように口を尖らせたセドリックにヘレンはまた笑いそうになったが、何とか堪えて正直に口を開いた。
「あの二人は前科があるからね。先生と呼ぶくらいじゃあ、許してあげない」
「はじめてあなたが元スリザリン生だってことに納得しました」
「はじめてだって?僕ほどスリザリンらしい人はいないのに」
今度はヘレンが口を尖らせる。セドリックは、いつも温かい笑みを浮かべるヘレンがそんな子供じみた顔を見せるのは自分だけだと優越感を覚えていた。

「ハリーがファイヤーボルトをプレゼントされたってもっぱらの噂です。でも僕はそれに勝てるかどうか……」
「おやセドリック、きみの戦う相手はファイヤーボルトなのかい?」
「それは……」
「僕はね、きみのファンとしてきみの活躍を心から願っているんだ」

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