「あの人はクリーチャーを捨て駒として扱いました。僕はそれがどうしても許せない」
「レギー……」
「どうせ死喰い人を抜けるのなら、僕は一矢報いたい」
「……何をするつもり?」
固い決意に爛々と燃える目を見て、ヘレンは止めても無駄なことを悟った。簡単に言い負かされてくれるのであれば、今頃レギュラスは死喰い人ではなく、ヘレンの可愛い後輩として関係を続けていただろう。

「あの洞窟にはあの人の霊魂の一部があると考えています」
「霊魂の一部……、分霊箱か」
「ヘレンもご存知でしたか」
「存在だけはね。まさか本当に作る人がいるとは思わなかったけど」
分霊箱は不死性を獲得するために、魂の一部を閉じ込めたものである。その性質から魔法界では忌むべきものとして扱われ、『深い闇の秘術』のみにしか、その存在は語られていない。だがヘレンは祖母からその存在を聞いていた。マグルでも魔女でもなく、精霊である祖母はありとあらゆる話をヘレンに聞かせた。時には愉快な冒険譚を、時には切ない恋物語を、そして時には恐ろしい闇の魔法の話を。知らなければ守ることも出来ないという考えのもと、ヘレンはたくさんの知識と力を手に入れた。

「僕はそれを奪います。できれば壊せればいいんですが」
「そう、なら仕方ない。力を貸すよ」
「っ!駄目です!!あなたを巻き込みたくてここに来た訳ではありません」
「なら、僕にこのままきみを見捨てろというのか?」
レギュラスは最後に一目会いたかっただけだった。何度もヘレンから死喰い人を止めるように諭されても聞く耳を持たなかったが、最後に反旗を翻すことをヘレンだけには知っていて欲しかった。
だからヘレンの優しさを失念していたのだ。ヘレンがレギュラスを見捨て、死地へと向かうのを黙って許してくれるはずなど無かったのに。

「レギー、いいか?僕は湖の貴婦人ヴィヴィアンの孫だよ。何があってもきみを溺れさせることは無い」
「ですが万が一あの人に見付かったら、あなたまで危険な目に遭ってしまいます」
「きみの勇姿を前にして、そんなことで恐れると思う?」
ヘレンの引かぬ様子にレギュラスは彼を止めるのは諦めるべきだと悟った。スリザリン生は総じて頭が固く、偏屈で、頑固者なのだ。いつだかヘレンが語った特性──当の本人は自分は違うとでも言いたげであったが──を思い出し、降参とばかりに手を挙げるしかなかった。

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