WT世界からやってきたS級隊員

その日、五条悟はとても疲れていた
腐ったミカンのせいで任務、任務、任務
可愛い生徒たちにも会えず、気持ち悪い呪霊をちぎっては投げ、ちぎっては投げを繰り返し、さあ帰るぞと思ったら追加の任務

結局任務が全て終わる頃には草木眠る丑三つ時を過ぎていた
静まり返る住宅街を無心で歩く
伊地知を呼ぼうとしたが、時間を見てやめた
五条も後輩を労るということを学んだのだ

ちなみに高専の頃なら労わることも無かったし、何なら閑静な住宅街だろうと大声でドラえもんを歌い上げていただろう
銀髪は怖くなったらドラえもんを歌うのが使命だと、誰かが言っていた
別に五条は怖い訳では無いが

閑話休題

とにかく五条は誰もいない住宅街をただ歩いていた
何を話すわけでもなく、すたすたと無駄に長い足を使って歩いていただけなのだ

するとふと目の前に人が現れた
いや人と呼ぶには気配が無機質だった
呪霊だろうか、半ば無意識に戦闘態勢をとる
するとそれが口を開いた

「ありゃ?何ここ、っかしいなぁ。まさか彼奴のトリガーって転移とかそういう性能のやつだったか?」
してやられた、頭を掻きながら男が呟いた

「お兄さん、何者?人間って感じじゃなさそうだけど」
五条は警戒心を隠すようにそう言った

「何それ冗談?お前の副作用はどう言ってんだよ」
男は笑いながら五条に近付いてきた
「サイドエフェクト?いやそれよりも質問に答えてくんない?僕あんたのこと殺しちゃうかもよ」
「は?僕?え、ちょっと待って。迅じゃないの?」
男は人違いに気付いたのか慌てたように言った

「ジン?僕は五条悟、名前くらいは聞いたことあるんじゃない?」
この名を聞けば、呪術に覚えのある者なら身を引くか、警戒するだろう
「やべ、全然知らねぇ」
男はうんうんと頭を捻っている
その様子を見て五条は警戒を解いた

「知らないならいいや、で、君は?」
「あ、悪ぃ。俺は出水颯、女みてぇな名前だけど笑うなよ」
「人の名前を笑うほど無礼じゃないよ」
「そりゃ良かった」
五条は出水の粗暴な話し方に似合わない名前だと思ったが、言わなかった

「それで君は人間なの?」
五条の質問に出水はフッと吹き出した
「初対面の奴に失礼過ぎるんだけど」
そう言われ五条も少しばかり反省をする
ただ人の疑問に腹を抱えて笑うような奴に謝罪する気は起きなかったが
「人間以外の何に見えんの?」
笑いが治まったのか、出水がそう尋ねた
「人間に見えるけど、気配が人間のそれじゃない」
「あ、まじか。これは完全に俺が悪い」
そう言われ出水は何かに気付いたかのように謝った

「トリガー解除」
そう呟いたかと思うと、出水の気配が人間のものに変わった
「うわ何それ、今何したの?」
五条の好奇心に火がついた

「あ、やべ。五条お前のせいで俺怒られちゃうじゃん」
「えぇ、何で?」
「トリガーは機密事項だから一般人の前で解除したのバレたら絶対減給される。ああ忍田さんの拳骨やだなあ」
「トリガー?」

「ああぁぁぁぁあ、もう俺の馬鹿」
出水はそう叫んで、キッと五条を睨みつけた
「お前もお前だ、何でトリガー知らねぇの?三門市民じゃねえのかよ」
「三門市?聞いたことないんだけど、どこそこ」
「え、門が開いたとこだよ。ニュースにもなってただろ」
「ゲート?そんなニュース見たことない」

出水は知ってる知らないの押し問答をしても無駄だと思ったのか、少し考え込む素振りを見せた

「お前ネイバーか?」
「さっきから何言ってんの?」
「だよな」

出水は、はぁあああと大きな溜息をつくと肩を落として落ち込んでいるようだった

「え、何。僕全然理解できないんだけど」
終始五条は混乱していた
何も分からないまま、出水は自己完結し五条は思考の海に置いていかれたのだった

そして

「なあ五条。異世界から来た男子大学生拾ってみねぇ?」






ところ変わって、ここは五条の自宅

「うわ、俺選択ミスったわ」
五条が蒼でポンと出水を自宅へ連れて帰る
そして開口一番の台詞がこれである

「はあ?何それ酷くない?」
「逆光で全然顔見えなかったけど、まさか野外目隠しプレイ真っ最中の人に拾ってくれって頼むなんて」
五条は、あーシクったと嘆くこの男を蹴り出してやろうかと本気で悩んだが大人なのでやめておいた

「てかさっきから敬語も使えないの?」
仕返しとばかりに出水に詰め寄る
大学生だと言っていたから、余程の理由がない限りは年下のはずだ
「敬語?何で?あんた俺とタメくらいじゃねぇの?」
「出水がいくつだか知らないけど、僕は28だから」

「はあ?東さんより年上?いやいや無いわ。京介だってもっとマシな嘘つくわ」
「東さんも京介も知らないけど、本当だから。ほら」
そう言って身分証を提示する
ここまで来るとやけみたいなものだ
「いや今何年だか知らねぇし。まあいいや信じてやるよ」

「じゃあついでに、さっきのサイドエフェクトとかトリガーとかゲートとかの説明もしてよ。歳上のお願い聞けるよね?」
「あーはいはい。どうせ異世界だからバレてもいっか」
「あとそれも。異世界ってどういうこと」
五条はこの際聞きたいことは全て聞くことにした
どうせこんな厄ネタ抱えておちおち寝られやしないのだから

そして分かったことは
出水たちの世界はこっちの世界とは異なる世界で、身体にトリオンというものが流れているらしい
そして稀にそのトリオンが脳や感覚器官に影響を及ぼし、超人的な感覚をもたらす者が存在し、それをサイドエフェクトと言うのだとか
トリガーはそのトリオンを使った武器であり、ゲートと呼ばれる門からネイバーという敵が現れトリガーで武装して倒すらしい

「え、君たちプ●キュアにでもなるの?」
「プリキ●アは無給、俺たちは有給だ…です」
「プリ●ュアって世知辛いね」

「颯にもサイドエフェクトってあるの?」
「ある…です。俺のは超直感、簡単に言えばめっちゃ勘が当たる…です。」
「火神みたいな敬語なら、使わなくていいや」
「五条バスケやろうぜーお前ボールな」
「敬語使わせたの怒ってたの!?ごめんね!?」

などと戯れていたが、出水が表情を改めて本題に入る

「それはまあいいや、で五条サンこそ何者?」
「知らないのによく拾ってくれとか言えたね」
五条の呆れたような非難するような声を無視して、出水は再度尋ねる
「普通の奴は人間の気配とか知らねぇし、それに殺すって言ってたけどあれ冗談じゃねぇだろ」
「うん、そうだね本気で言った」
「なら尚更あんた何者だよ」

五条は答えに迷っていた
呪いだなんだの話を急にされても怪しまれるだけだからだ
「好きに答えていいぜ、信じるかは俺が決めることだ」
「ならそうさせてもらうよ」
そうして五条は呪霊や術式、高専で教師をしていることなどを大まかに伝えた

「ならチラチラ見えていた奴らは呪霊だったってことか」
「へえ見えるんだ、でも颯は術式無いし祓えないから近づいちゃ駄目だよ」
五条が善意100%で伝える
だが出水はムッとした表情を見せた
「これでも昔は隊を率いてた隊長だったんだ、あんな奴ら屁でもねぇよ」
「颯を馬鹿にした訳じゃなくて、呪いは呪いでしか祓えないの」

すると出水は何かを閃いたかのようにある物を取り出した
「ならこれは?」
「!この呪力、まさか特級呪具!?」

出水が取り出したものは先程見せたトリガーとは異なり、強力な呪力が宿っていた

「ちょっとそんなの今までどこに隠していたの?颯が出すまで呪力の一切を感じなかったんだけど」
「あー、いや多分武器化しないと呪力が抑えられるんじゃね?知らねぇけど」
「ふぅん、でも何で異世界出身の颯がそんなモン持ってんの」
五条の疑問は当然だった
この世界でもあまり類を見ない程強力な呪力を要する特級呪具
異世界から来た出水が持っているには些か不自然過ぎた

「なあ五条、人が死ぬ時想いを遺すだろ。それも呪いなんじゃねえの?」
「つまり?」
「この黒トリガーは人の命から生まれるンだよ」
「なっ…んだよ、ソレ」

この黒トリガーは出水の母が遠征時にその命を賭して遺したものだという
適合者は出水ただ1人
ダイヤモンドの如く硬い刀身は刃こぼれを決して許さない
どんなに硬いものでも必ず斬ることができるのだ

「なぁその呪霊って奴勝手に斬っていいわけ?」
「まあ基本的に人にとって悪い影響しか与えないしね、いいよ」
「おっしゃ、早速斬ってくるわ」
「僕も行くよ」






そして現在

「はーいちゅうもーく」
パンパンと五条が2回手を叩いて注意を向ける
3人の生徒の中でわくわくとした顔をするのは虎杖ただ1人だけだった

「君たちに新しく体術の先生をつけることにしましたー、はい拍手ー!」
わぁぁと手を叩くのも虎杖だけである
「こちら異世界から来た出水颯くんです、仲良くしてあげてね」
「ハイ皆さんちわっす、出水颯です。よろしく」
ガシガシと頭を掻きながら雑に挨拶する出水に教室は一気にざわめいた

「異世界!?すげえ!!」
などとはしゃぐ虎杖
「いやアンタ異世界って流石に騙されないわよ」
「どういう意味ですか」
だが釘崎と伏黒の2人から胡乱気な目で見られ、流石の出水も視線で五条に助けを求めた

「はいはい静かに静かに」
パチパチと五条が再び手を叩いて静かにさせる
「僕もよくわかんないんだけど、戦闘技術は君たちより遥かに上だし信用もできるから、騙されたと思って教えて貰いな」
そんな五条に苦笑いしながら出水も頷く
「確かに俺の素性は信じなくていい」

「おい、そこな小僧その気配は何だ」
「げぇっ、二宮さん!?」
宿儺の呼び掛けに出水は顔を真っ青にしながら誰かの名前を呼んだ

「二宮さん?」
宿儺を叩きながら虎杖は首を傾げる
出水は周りを見回したあと別人だと気付いたようで、ホッとした顔をした
「いや今の声にそっくりな知り合いがいてな」
そしてゆっくり息を吐きながら、宿儺の問いに答える
「で、気配ってもしかして黒トリガーのことか?見せてやンよ」

出水の手には黒く長い刀が握られていた

「黒トリガー?」
伏黒が始めた聞いた言葉に首を捻る
「まあその辺はおいおいね」
説明するのが面倒臭いのか五条が首を振った
命を糧に作る武器なんて到底言えないだろう

「特級呪具が。だがここまでの呪力を有しながら禍々しさを感じさせないとは中々の物だ」
ほうと感心したように宿儺が述べた
「まあな」


じゃあ実力を試そうか
そんな五条の言葉に出水は嫌そうな顔をしながら頷いた

1年生3人と出水で対戦することになった

しかしいくら攻撃をしても、それを全て読まれているのか交わされてしまう

二時間経つ頃には3人の体力は限界だった
対して出水は飄々としている

「なあなあ出水せんせー!何で特級呪具使わねーの?」
いち早く体力が回復した虎杖が尋ねる
「俺には武器が二つあるから、あれ出すの面倒臭いんだよね。ちなみに今使ってんのがノーマルトリガーって呼ばれてるやつ」
「その剣みたいなやつですよね?」
伏黒も疑問に思っていたのか会話に入る
「いやこれは弧月って言って、ノーマルトリガーの一つの性能?みたいなもん」
「じゃあさっきポーンって飛んだのも性能?」
「そうそうグラスホッパーって言ってジャンプ台みたいな感じ」
それから、と出水は続けて三角の物体を幾つか出した
「これがアステロイド、直線に飛んでいって攻撃すんのね」
三角の物体は真っ直ぐ進み地面を抉った
「次にバイパー、方向を自由に変えられるやつ」
次に現れた三角はカクカクと動いて先程と同じ場所に着弾した
「で、最後にハウンド。追尾弾とも言って相手を追う感じのやつ」
そう言って三角を作り出すと、それらは五条に向かって飛んで行った

「え、なんか来たんだけど」
五条が避けるも、三角は五条から離れない
そして五条の無下限呪術にぶつかって消えた

「おおー!かっけえ」
「どういう仕組みですか?それ」
「ちょっとそれ面白そうじゃない!」
三者三葉の言葉に出水は笑いを零す

「本来なら弧月も弾トリガーも人に害は無いはずなんだけど、ここではこれも武器になっちゃうだよね」
あ、そうだ言い忘れてた
そう言って出水は話す

「俺大体次に攻撃来る場所とか予感出来ちゃうから、俺に当たんなかったのは実力不足とかじゃねえよ」
安心しろとでも言うかのように笑う出水に驚く
「何それチートじゃん!」
テンションが上がった様子の虎杖が叫ぶ
「なら出水先生に防御系のトリガーの性能が無かったのって」
「ん、そう。どうせ当たんないから必要ないし」
「うわアンタムカつくわー」

「てことで、これからよろしくな?」
にっこりと笑う出水に一発くらいは入れたいと思う1年生であった




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