俺の同級生が可愛い(本意)

俺の同級生が幼い姿になった。推定3歳程だという。
理性も肉体年齢に引っ張られているらしく、不機嫌になると普通に泣き出す。いやそれは以前もか。
この状態ではさすがに任務にも行かせられず、大概一人残されて部屋で不貞腐れている。

「出水〜。プリンやるから機嫌直せって」
任務終わりせっせと出水の世話を焼く虎杖にムッとするが、俺たちの中で一番子供の扱いが手馴れているのだからそれも仕方の無いことだった。
「いたどり、あーん」
口を開いてプリンを待つ姿は小鳥のようで、直でそれを見た虎杖は胸を抑えて蹲った。あれは俺でも危なかった。出水は可愛いのだ。小さくなって手足がふくふくとしている姿を五条先生は「天使」と称したが、あながち間違いではないかもしれない。
「はーやーく!おれにぷりんちょうらい!」
「お、おう」
必死に這い上がって出水の口にプリンを運ぶ虎杖。何がこいつをそこまでさせるのか。出水が可愛いからか?


「ふしぐろけがしなかった?」
「してない」
プリンを食べ満足したのかキュッキュッと靴音を立てて(五条先生の趣味らしい)俺の前に来ると、よじよじとソファに上り、そこに座っている俺の足の間に腰を下ろした。
「あー伏黒ずりい!」
「いたどりはたいおんがあちゅいからや!」
出水は子供らしい舌っ足らずで虎杖を落ち込ませたあと、俺の両腕を掴むと自分の前に持ってきた。

「バックハグとかやるねー」
こういう時に限って現れるのがこの男、五条先生である。何だバックハグって。
「おれふしぐろのことすきだから、うしろからぎゅってされるのうれしい」
何だこいつ。出水は自分の可愛さを分かって話しているのか。今の俺は虎杖に負けないほどに体温が高いだろう。
「僕もぎゅってするよ!僕がやろうか、ね?ね?」
「五条先生がすると普通に犯罪です」
「なら俺はー?」
「いたどりはあちゅい」
「うーん舌っ足らずな颯も可愛いねー!」
俺から出水を取り上げてうりうり言いながら頬擦りする五条先生に「やー」と声を上げてきゃらきゃら笑う出水。犯罪臭がやばいが、本人たちがいいならそれでいいのだろう。


「悟?買い物に行くって言ってなかった?」
ひょっこり顔を出した夏油先生の声に反応した出水はぴゃーと嬉しそうに足をばたつかせた。
「行く行く。あ、こら落ちるでしょ」
五条先生は出水を抱き上げる手を緩めるとそっと地面に下ろした。
「なあ伏黒。出水って何であんなに夏油先生好きなん?」
「もともと夏油先生に助けられてこの世界来たからな。夏油先生も出水可愛がってるし構ってもらえて嬉しいんだろ」
思いの外ぶっきらぼうな口調になってしまったが、目の前で夏油先生とイチャイチャする出水を見せられたらそうなるのも仕方ないと思う。

「颯、今日はパジャマ買おうね。それから〜」
「程々にね」
夏油先生はさも常識人のように釘を刺すが、今出水が着ているセーラー服はこの人が用意したことを俺たちは知っている。
「せんせえたちがいろいろかってくれるから、おれもっとかわいくなっちゃう」
えへへとあざとく頬に手をあてて笑う出水は言葉通り可愛かった。


「ちょっと待ったあ〜〜!!!」
「うわどうしたの二人して」
五条先生が驚いた声をあげ、やってきた二人、釘崎と真希先輩を見る。
「出水のパジャマならもう私と真希さんで用意したわ」
「お前ら見て驚けよ」
じゃじゃーんと釘崎が効果音を口で言いながら、それを広げて見せた。
「「クレヨンし〇ちゃんだと!?!?!?」」
教師陣が驚き膝を床につけて悔しがる。何だこれ。
「すっげー!なあ出水、それ今着て見せてよ」
ワクワクした様子で虎杖が出水を見る。
「おれまだぼたんむずかしい…」
「あ、そっか。じゃあ俺が手伝うから駄目?」
「いいよ!いたどりがきせて」
両手を広げて「ん!」と虎杖に全てを任せるようにする姿に、虎杖は倒れ伏した。まさかダラダラと垂れているのは鼻血か。

「ケヒッ、そのぱじゃまとやらを寄越せ。俺が着せてやる」
「宿儺!」
宿儺の登場に夏油先生がさっと出水を抱え、五条先生が臨戦態勢をとる。真希先輩も釘崎も既に獲物を構えていた。宿儺お前鼻血出ているが、呪いの王がそれでいいのか?
「しゅくなぼたんのとめかたわかるの?」
「しゅくなではない。す、く、な、だ。ほれ言ってみろ」
「しゅくな!」
「この阿呆めが。相変わらず愛いなあ」

これを聞いて全員警戒を解いた。まるで孫を可愛がる祖父の会話に呆れが勝つ。この馬鹿はいつから宿儺と仲良くなっているんだ。何故それをほかの人に言わないんだ。

┈┈┈┈

「ふしぐろ!これいっしょにみよ!」
出水が持ってきたのは低俗なホラー映画で、どう断ろうか反応に困る。精神年齢は元の姿のままだが、情緒は肉体年齢なのだ。つまりホラー映画が好きだというのは変わらないがホラー耐性は著しく低下している。映画を見たら確実に泣く。泣いている姿も可愛いが、さすがに良心が痛む。

「誰がンなの見るかよ。お子ちゃまはこれでも見てろ」
「おれ15さいだもん!あんぱん〇んなんかみないしとーじにいってない!」
ああクソ始まった。このクソ親父は何故か、何故か!出水から名前で呼ばれている。それが嬉しくて堪らないのだろう。たまにこうやって“伏黒”に反応して出水から甚爾と呼ばせるのにハマっているのだ。その時に口角を上げて俺を見るところが心底ウザい。


「もうとーじやだ!めぐみえいがみようよ!ね?」
今、今なんて言った?まさか俺の名前呼んだのか。クソ親父の嫌そうな顔を見るに出水が俺の名前を呼んだのは間違いない。可愛いかよ。
「分かった映画見るから、それ貸せ颯」
初めて出水の名前を呼んだがしっくりくる。颯、颯。
俺が了承したからか、ぱあと花が咲いたような笑顔を見せてディスクを俺に手渡してきた。

「おい颯。お前どうせ泣くんだから止めとけよ」
クソ親父が止めにかかるがもう遅いだろう。それにしても出水の涙に弱いのは親子揃ってらしい。親父が珍しく心配そうな顔で出水を見ていた。
「とーじとめぐみがいるからこわくないもん!」
「っそうだな」
クソ親父は仕方ねえなと俺の隣に腰を下ろすと俺の上に乗っていた出水を自分の上に乗せ直した。こいつのこういうところが嫌いだ。

「恵。お前なんか淹れて来いよ。こいつには熱すぎねえココアな」
「死ね」
「めぐみ、おれもてつだおうか?」
出水が火傷をする未来が見え、それを断る。
二人にディスクをセットしておくように伝えて飲み物を用意した。
親父のコーヒーには五条先生並に角砂糖を投入してシレッと持っていった。

親父の嗅覚は犬だったとだけ伝えておく。


案の定、映画にビビりまくって俺と親父の服に涙を擦り付けた出水は泣き疲れて結局眠ってしまった。
俺も親父も第三者がいない中、二人で話すことも無く速攻解散した。出水は親父に連れ去られた。


後日談として、俺を名前呼びし始めたことがバレ全員名前呼びを強制された出水は少し可哀想だった。
夏油先生の名前がどうしても言えず、その姿が余りにも可愛かったため何度も何度も言わされていて同情したし、そいつの中身は15歳ということを多分皆忘れている。


幼児化現象は1ヶ月程で元の姿に戻った。本人はめちゃくちゃ恥ずかしがっていたが、五条先生を初めとする周りの人達に「可愛かったよ」と言われ満更でも無さそうだったから結果オーライだと思う。

┈┈┈┈┈

「恵!俺の頭変にゃの付いてる!にゃ!俺普段の三割増で可愛くなっちゃう!にゃ!」
取ってつけたような語尾は無視することにして、何だその耳。何だその尻尾。



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