俺の同級生が可愛い(不本意)

その日俺と出水が同じ任務についた。

現場は廃工場で錆びた建物がいかにもな雰囲気を醸し出していて、報告にあった3級の呪霊という情報も定かかどうか疑問が生まれる。

呪霊を捜索していると突然俺と出水は分断させられ、俺は1人部屋の中に閉じ込められた。中に呪霊がいる気配はなく、恐らく出水の方にいるのだと予想が着いた。だからこそ早く増援に行かなくてはと思うものの光が一切入り込まない暗い部屋では状況が分からず、下手に動けなかった。

何とか脱出した時には既に呪霊は祓われていて急いで出水を探し出した。
出水に怪我はなくそれに安堵したが、出水は不貞腐れた表情でキッと俺を睨んだ。
「伏黒遅い!」
「悪い」
二人であたる任務を出水一人に任せてしまったのは事実であり素直に謝る。
「うーうー!」
「何言ってんのか分かんねえよ」
「あの呪霊のせいで呪力が出なくなった!」
「は?」
呪術師から呪力が消えるのは例外を除くと不味い状況である。

「どうしよう!これじゃあただ俺が可愛いだけの人間になっちゃう」
出水の言葉に実はそれほど焦ってないのでは?と思わずにはいられなかった。出水が可愛いのは不本意だが事実なのが余計ムカつく。


「良かったな、段々呪縛も解けて二週間もすれば呪力も完全に元通りになる」
家入さんの診断を受け出水も最初は喜んでいたが、二週間という長い期間に溜め息を零した。
談話室で項垂れ落ち込んでいる出水をどうにかしてやりたくて声を掛ける。
「別に可愛いだけの出水でも俺は嫌いじゃない」
ぱあと顔を明るくした出水に俺の心のつっかえも取れる気がしたが、「ほんと?俺も伏黒好き!」と俺の周りをチワワのように駆ける姿に面倒くさくなってきた。

「あれ〜?恵耳赤いけど熱でもあるの?」
どこからか五条先生が現れ俺をからかうようにそう尋ねてきた。この口ぶりから全部聞いていたのだろう。この先もしばらくからかわれるのだろうと思うとウンザリした。
「伏黒、熱?大丈夫か?」
チワワがぴたりと止まり心配そうに俺の顔を覗き込む。繰り返すが不本意なことに出水は可愛いのだ。そういったことを平気でするのはやめて欲しい。
「熱じゃない。部屋戻る」
「お大事にな〜」と緩く手を振る姿もやはり可愛い。


初めは男に可愛いと思うなんて有り得ないと思っていたが、先輩たちも口を揃えて出水を可愛いと称すのでそれが普通なのだと思うことにした。
五条先生に至ってはよく「食べちゃいたいくらい可愛い」と言っているが、本気でいつか逮捕されると思う。まさか俺の知らないところで出水に手を出してたりしないよな?




「伏黒怪我したって聞いたぞ!大丈夫か?」
宮城から帰るとバタバタとうるさい足音と共に出水がやってきた。寛いでいたのか膝丈程の大きめのTシャツを来ており、そこから覗く白い足が艶めかしく感じる。
「ッ下履けよ!」
思わずそう叫ぶと出水は頭にハテナを浮かべTシャツを捲り上げた。
「ッ〜〜!!!!!」
声にならない叫びが漏れる。我ながら男相手に何を考えているんだと思うが、出水だから仕方がない。
「ほら!履いてる」
ショートパンツを履いてることを見せたかったのだろうが白い腹と臍に目がいき、それどころではなかった。



隣から話し声が聞こえ出水と共に顔を出す。
どうやら虎杖が俺の隣の部屋に越してきたらしい。

「お、丁度いい所に!」
五条先生が出水を呼ぶと虎杖に紹介した。
「こちら出水颯。1年生同士仲良くね」
「初めまして。出水颯です。今は訳あって可愛いだけしか取り柄がないけど、ほんとは強いんだからね」
初対面の相手にその自己紹介が出来る奴の取り柄が可愛いだけのはずが無い。
「お、おう?俺は虎杖悠仁。好みのタイプはジェニファー・ローレンスです」
「俺って言って貰えるように頑張るね」
出水は誰に張り合っているのか。五条先生も「僕のタイプは颯だよ♡」じゃない。
五条先生が明日また一人迎えに行くと告げ去っていったが、去り際に「颯、僕のお古着てて可愛いね♡」という特大の爆弾を落としていって殺意が込み上げた。別に出水が五条先生の服着ようが俺には関係ないのに。

「な、なあ。出水と五条先生ってそういう関係?」
こそこそと尋ねてきた虎杖を睨みつけ「知らねえ」とだけ返した。耳聡くそれを聞いていた出水が「違うよぉ」とのんびりと否定し、心のどこかでホッとした自分がいる。可愛い出水があのちゃらんぽらんの毒牙にかかるのが許せなかったのかもしれない。



┈┈┈┈┈
釘崎の俺らに対する第一印象はそれぞれ「幼少期ハナクソ食ってた」虎杖に「重油まみれのカモメに火をつける」俺、「いじめられた仕返しに相手の椅子に接着剤つける」出水だ。後日出水が釘崎に聞いて判明したが、俺はそんなことしない。

五条先生の出水へのデレデレヘラヘラした態度に釘崎は何度も通報を考えたらしいが、1回くらいは法の裁きを受けるべきだと思う。

ただ“可愛さ”を売りにするだけあって女子力の高い出水と釘崎は馬があった。
二人で女子トーク(出水は女子ではないが)をしていると何となくモヤモヤするような嫌な気分になる。
最近は虎杖も五条先生のように「出水可愛い」コールをするので胃がキリキリ痛むことが増えた。

ようやく二週間経ち、出水の呪力も元に戻った。家入さんからも完治のお墨付きを貰って喜んでいる。
「もう可愛いだけの俺じゃないんだから!」とドヤ顔で言っていたが、釘崎にその姿を写真撮られているとは伝えなかった。1枚500円だった。



無事任務に出られるようになって数日後、出水が泣きながら帰ってきた。3歳児程の姿になって。
「うわぁ〜ん!またおれかわいいだけになっちゃった!やぁだ!おれもっとちゅよいとこみせたかった」
やはり出水は可愛い。不本意極まりないが。





出水颯
可愛い。チワワ。
自分の可愛さに自信があるが、あくまで可愛い男の子くらいの立ち位置でいたい。
複数人から狙われてるなんて思ってもいない。
多分西宮ちゃんの従兄弟とか。

伏黒恵
一番付き合いの長い同級生が可愛い。
認めたくないが可愛いと思ってる。つまり可愛さは認めてる。
だが恋とは認めない。これは愛玩的な可愛さだと思い込もうとしてる。残念もう手遅れだ。

虎杖悠仁
好きなタイプに出水の名前を上げる日は遠くない。
初対面から出水のことを可愛いと思っていた。
彼シャツにキュンときたけど、五条のと聞いて少しモヤッとした。多分頼めば虎杖のも着てくれる。

釘崎野薔薇
出水のことを舎弟だと思ってる節がある。
出水に可愛い服を着せて男達の前で見せびらかすのが好き。可愛いを肯定してくれる出水も好き。
五条にはドン引きしてる。

五条悟
教師と生徒?禁断の関係って逆に燃えるよね。
可愛い可愛い食べちゃいたい。
出水以外の生徒が可愛いって言われて喜ぶなら普通に言う。好きなのは出水。生徒は皆可愛い。

「恵、可愛いね」「気色悪ぃ」
「悠仁、可愛いね」「俺可愛いより格好良いがいいな」
「野薔薇、可愛いね」「セクハラよ」
「颯、可愛いね」「ほんと?嬉しい!先生好き!!」「僕も好きぃ♡」



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