政府より届けられた書簡を読みながら、夜蛾は眉間に皺を寄せた。
屍草の撲滅を依頼する文であるが、この組織は政府の尻拭いをすることが目的ではない。にも関わらず当たり前のように押し付けてくる政府に文句のひとつでも言ってやりたくなる。
だが屍草に頭を抱えているのは何も政府だけではない。組織の末端にまで屍草は入り込んでいたのだ。幸い家入のお陰で大事には至らなかったが、それも時間の問題だろう。
夜蛾は重たい腰を上げ、五条班を呼び出した。
真っ先に来たのは五条班の中でも古株の伏黒だった。彼は未だに姿を見せない他の班員に舌打ちを零すと夜蛾に向き直り尋ねた。
「今回の任務は例の件についてでしょうか」
「ああ」
伏黒に書簡を渡すと、彼も同様に眉間に皺を寄せた。
「伏黒何読んでんのよ」
やや遅れてやって来た釘崎が伏黒の手元を覗き込む。彼女も嫌そうな顔を見せると吐き捨てるように言った。
「いつから私たちは政府の犬になったわけ?」
「そう言うな釘崎」
夜蛾に宥められながらも苛立ちが隠せない釘崎はその怒りを未だ来ない二人にぶつけた。
「何やってんのよ彼奴ら!私を待たせる気?」
がうがうと吠える釘崎を横目に見ながら、伏黒も苛立っていた。五条が遅れるのは珍しくないが、彼は故意に遅れるのだ。それを知っているがために沸き立つ怒りを溜め息で誤魔化した。
「わりぃ!遅れた」
バンとドアを開け放って現れたのは虎杖だ。学生服には葉や土がついており、道無き道を走って来たのだろう。
「あんたねぇ…」
呆れた声で釘崎が注意するが、それが虎杖らしさでもあるので伏黒は何も言わなかった。
それから待つこと十五分程。
「おーまたっ!」
軽薄そうな声と共に外套を翻して現れたのは五条班班長、五条悟である。
「悟。お前と言う奴は何度言えばわかるんだ」
額に青筋を浮かべた夜蛾が咎めるが、まるで暖簾に腕押し。五条は聞く耳を持たない。
「で、夜蛾サンご用件は?」
飄々と言ってのける五条に深く深く溜め息を吐いた夜蛾だが、諦めたように伏黒の手元の書簡を指さした。
「政府より依頼だ。屍草の駆除撲滅が今回の任務だ」
「はぁ?僕より傑の方が向いてんじゃん」
ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる五条に呆れた目を向ける五条班の面々だが、これも日常茶飯事である。
「夏油班はお前が押し付けた任務で今九州にいる、分かったな?」
完全なる自業自得だが、五条は駄々をこねた。
「傑だけ呼び寄せればいいじゃん」
「無理を言うな」
そんな班長を白い目で見ながら伏黒が口を開いた。
「確かに俺らだけで何とかなるレベルではないと思うんですけど」
「ああ、だから世理を呼んでおいた」
「あの人病み上がりじゃない!」
「野薔薇に心配されるなんて俺も焼きが回ったかな」
おどけたようにそう言って現れたのは件の来栖世理だ。
「世理さん、怪我大丈夫?」
犬のように世理の周りをくるくる回り怪我の確認をする虎杖。口には出さないが心配そうに見る伏黒。
それに対し五条は無邪気に喜んでいた。
「世理が来るなら百人力じゃん、傑に自慢しよ」
「お前ほんとそういうとこだぞ」
来栖は笑いながらそう言うと書簡をまじまじ眺めた。
「屍草か。確か初めは横浜だったよな」
「そうですね」
「行くかー」
背を向けた来栖に「頼んだぞ」と声を掛ける夜蛾。これには五条が勝手しないように見張れとの意味がある事を五条だけが知らなかった。