「悟んとこはどうだった?」
「被害者の名前は木下幸次。元々米国に勉学のため渡っていて、語学力を買われ貿易船で帰国」
「その帰国した船が例の船か」
「そう。いつ屍草を服毒したのかは不明だけど、帰国してすぐに横浜の自宅に帰ってるね。その時異変は見られなかったって家族が証言してる」
屍草の特徴として服毒してから症状の発現まで個人差があり、何時どこで屍草を口にしたのか分からないのだ。
「あ、俺これ預かってきたよ!」
虎杖が見せたのは1冊の手帳だった。開くとそこには日本語でも英語でもない言語が書かれていた。
「ロシア語だな」
「何で分かるのよ…」
若干引いたように釘崎が言うが、これに関しては戦争で必要だったから勉強しただけである。
「内容まで読めますか?」
「ちょっと待ってな」
19※※年5月11日
俺は米国で知り合った男に日本へ一緒に行かないかと声を掛けられた。どうやら日本との貿易のための通訳が必要らしい。偶には親へ顔を見せに帰るのも悪くないだろう。
19※※年5月16日
貿易船と聞いていたが、やけに警備が厳重である。そして米国の兵隊までいるのはどういうことだろうか。不審さが募った。
19※※年5月17日
監視されている。幸運にもロシア語を読める人はいなさそうだ。だがこれは見つからない方がいいだろう。船長と俺を誘った男が怪しげな会話をしていた。内容を以下に記す。
「クレーハーブを■■■す」
「日本の■■で広げることで軍の■■■を■■」
「幸次にクレーハーブを■■■■■■」
「まだ早い」
「だが■■■は■■■■だ」
「しかし」
「軍部の命令だ」
聞き取れたのはここまでだった。
19※※年5月18日
今日意識が朦朧とすることがあった。疲労かそれとも。いや考えるのはよそう。もう寝た方がいい。
19※※年5月19日
先の戦争で死んだはずの兄がいた。戦争に行かなかった俺を責めたてる。やめろやめてくれ。来るな。兄はそんなこと言わない。来るな来るな来るな。
19※※年5月20日
昨日はどうかしていた。怖い夢でも見たのだろう。
長い船旅で体調を崩したのかもしれない。今日も早く寝よう。
「とまあこんな感じだな」
「終わり?」
釘崎が尋ねる。来栖は釘崎に手帳を差し出した。
「何者かに破られた跡がある。所々ロシア語以外の言語も度々混じっていたし、誰かが読める文で書いてしまったのかもな」
「でもそれなら変だよ、僕だったら手帳ごと破棄するけど」
五条の言う通り該当の頁だけを破くのはあまりにも不自然だ。それも何が書いてあるのか分からない文であるのに。
「なら佐々木さん本人が破ったとか?」
「考えられるな」
虎杖の言葉に伏黒が同意する。
「佐々木さんが破かなければならない理由ねえ」
「!絵日記ッ」
ハッとしたように虎杖が叫ぶ。
「あ、そうじゃん。言ってたねそれ」
「悠仁それ詳しく」
「佐々木さん家に帰ったときに妹に「お前に見せる絵日記を書いていたんだけど没収されてしまったよ」って話してたらしい。普段絵なんて描かない人だからって不思議がっててさ」
虎杖の話に来栖はなるほどと頷いてみせる。
「敢えて没収させたんだろうね。本命をそっちだと思わせるために」
「わざわざ没収するということは見付かるとまずい情報があったってこと?」
「だろうね」
「ねえ世理さん。その手帳に兵隊が乗ってたって書かれてたのよね」
「ああ」
「本当に貿易船なの?」
釘崎の疑問も尤もで、ただの貿易船に兵はいらないはずだ。
「佐々木さんの手帳以外で貿易船ではないという証拠がないのが問題なんだよなあ」
「世理たち何も見付からなかったの?」
五条に問い掛けられ首をすくめて見せる来栖。
「俺、船の見取図だけ書き写してきました」
「恵最高」
伏黒が書き写した船内図を見ながら不審な点を探す。しかし当たり前と言うべきか可笑しいところは見当たらないのだ。
「ねえ世理さん。ここ変じゃない?」
唐突に釘崎がある一室を指さした。
「この部屋見たけどこんなに大きくなかったわよね?」
「確かに。だが隠し扉はなかったと思う」
「目的を果たしたから改装したとか?」
「よし恵。お前明日この辺の造船所をあたってこの船を改装工事したか聞いてきて」
「はい」
怪しいところは直ぐ様潰していく。
「手帳にあったクレーハーブって屍草のこと?」
「恐らくな」
「佐々木さん船の中でもう服毒させられてたってことだよな」
「そうなるね。その時はそこまで重症化しなかったみたいだけど」
船の中では食べ物に屍草を混ぜこまれても、食べる他ないだろう。来栖は知っていたとしても食べざるを得ない状況の佐々木を思うと胸が苦しくなった。
「兵隊か。なら兵隊を雇える人物もしくは、米国の政府そのものが手引きしているか」
伏黒が手帳を見ながらそう呟いた。
「政府が絡んでんならこっちの政府も一枚噛んでそうだけどな」
「とりあえず目的が分かれば主犯も割れそうだね」
五条がそうまとめると、その日は解散となった。