「もしもし、傑か?」
来栖は九州の夏油に電話を繋いだ。来栖や夏油が利用するホテルは刑吏が管理しており、電話回線が繋がっているのだ。
「世理!もう身体は大丈夫なのかい?」
「ああ。ところで今九州にいると聞いたが」
「悟に体良く押し付けられたんだ。ここのところ工廠で謎の不審人物が発見されているようで、その調査にね」
「そんな調査に何で刑吏が?」
本来なら巡査にでも任せるのが筋だろう。薩摩に近いその地なら尚更だ。
「何でもその不審人物は外つ国の人だとか。無闇に捕えて外交問題にしたくないのだろうね」
「はぁ、そりゃまたご苦労なことで。そういや九州の工廠ってどこだっけ?」
「小倉だよ。佐世保にも不審人物が現れたらしいから、ついでに行く予定」
「…小倉、佐世保?」
つい先程聞いたばかりの地名である。来栖はこの違和感をどうしたものかと頭を悩ませた。
「どうかした?」
「いや何でもない。ちなみに不審人物って?」
「不審人物といっても何かしたわけではないみたいだけど、異国人が工廠の付近を嗅ぎ回ってるというだけで目立つからね」
港街であっても軍需工場に異国人がいるのは人目を引く。日本人であってもあまり好き好んで近寄らないのだから余計そうだろう。
「ああそれから声を掛けられた人もいるみたいだ」
「へえ、なんて?」
「ここら辺で人気の飯屋は何処かって聞かれたらしい」
「何だそりゃ観光か?」
「いやいや。ここはそんな栄えた街ではないよ。軍需工場が立ち並んでるだけだよ」
「軍需工場ねえ」
軍需工場に謎の兵隊。関連があるのだろうか。少なくとも調べてみる価値がありそうだ。来栖がそんなことを考えていると夏油から訝しげに声を掛けられる。
「世理?」
「いや。まあ元気そうでなによりだ。そろそろ切るな」
「じゃあ世理、怪我しないようにね」
「傑もな」
電話を切った来栖は地図を開いた。被害者の出た場所は横浜を除き全てに工廠がある。これが偶然のはずがない。
「もしもし来栖だけど、夜蛾さんいる?」
東京の夜蛾がいる事務所に電話をかける。
「いないけど伝言なら伝えるぞ」
出たのはパンダだった。夜蛾の子供のような存在であり、来栖もよく可愛がっている。
「あーまじか。じゃあ日下部班暇してる?」
「昨日任務から帰ったばっかだから暇だって言うと真希が怒んぞ」
「それもそうか。悪いこと聞いたな」
軽く謝罪しどうしたもんかとボヤく来栖にパンダが声をかけた。
「昨日雄が休みから戻ったけど変わろうか?」
「頼むわ」
正反対の二人を想像しながら来栖が嬉しそうに話す。
「呼んでくるから待ってろ」
パンダはそう言って電話を切った。
灰原雄と七海健人は来栖の後輩にあたる人物だ。五条や夏油と違い、班を率いず二人一組で行動することが多い。
「もしもし来栖さん?」
「健人久しぶり!元気してたか?」
「ええまあ。それより貴方が誰かを頼るなんてどういう風の吹き回しですか?」
来栖は七海の言葉に空笑いを漏らすと弁解するように頭をかいた。
「まあ色々な。それよりお前らこれから名古屋行ってくんね?」
「屍草ですか」
「さすが健人。情報が早いな」
「一応貴方に何かあったら困るので、何の任務かは確認させて頂きました」
「もう怪我しねえって」
心配掛けたことを申し訳なく思いながら来栖は任務の内容をざっと話した。
「つまり米国と日本軍に何らかの関係があると?」
「恐らくな。だがまあ傑のいる小倉と屍草が全く関係ない可能性もあるから他も確かめておきたい」
「それで私たちにということですか」
「ああ、頼めるか?」
「他でもない貴方の頼みですからね。灰原には私から話しておきます」
「助かるよ」
来栖は七海たちに名古屋の調査を任せ電話を切った。