陽炎くるめく病室にて
不謹慎なのは分かってますけど、と小さく前置きしてから彼は微かに笑って見せた。腕を失い、全てを失った名前は負傷したエルヴィン・スミスの話し相手だった。時間をもて余した彼だったが、話すことはそう多くなかった。
「……お揃い、ですね」
滅多に日の光を浴びない青白い肌。隈が目立つ瞳を細めて笑う。
その笑顔が痛ましくて仕方がない。
ぎこちない動きだが、無骨な義手を駆使してカップを持ち上げる。暇だから訓練してばかりいたのだと言っていた。
「そうだな」
残された方の手で髪をすいてやる。随分と荒れた手触りにまた悲しくなって、痩せこけた頬を撫でた。
「すっかり変わってしまったな」
「ええ、自分じゃなにも出来ませんから。それに、貴方も大概だと思いますけど」
「……そうか」
彼がもし、失うのが片腕だけで済んだなら。そう思ってやまない。きっと側に置けただろう。離れずに済んだ。
現実はいつだって無慈悲である。
「……名前」
「なんでしょう」
「まだ生きていてくれないか」
告げた言葉に瞬きをしながら、ゆっくり彼は首を傾げた。
「いつか私の責任が問われ、命を以て償わなければならない日が来るだろう」
「……待てるかな」
「待っていてくれると嬉しいのだが」
「うーん、努力します」
虚ろな瞳。その内側に淡い光が灯るのが分かる。
丁度いい口実を見つけた。彼にとっても、私にとっても好都合だ。
これでいい。これで終われる。
「はやく殺してくださいね」
違う、と首を振れば笑いながら訂正してくれた。
「はやく一緒に死にましょうね」
美しく彼は笑った。初めて美とは死を感じさせるものだと、この微笑みが教えてくれたのだった。
/20140516
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