白昼夢に君を描く
※死ネタ
巨人に食べられた。
それが彼女の死因だった。彼女は調査兵団の所属だ、あまりにもありふれていた。だが、彼女にはひどくそぐわない。
仲間を庇って巨人の口に自ら呑まれたのだと誰かから聞いた。……馬鹿だ。彼女の意思を唯一知る私はそう思わずにはいられない。話が違うじゃないか、と。
おかしな奴だった。
「理解なんてされたくない」と言って私とつるむのを選んだ物好きだった。詮索しない、進んで知ろうともしない。一歩引いた所で眺めるようなタイプだった。
優秀な奴だった。
けれど本人は上手く成績を調節し、けして目立たぬように努めていた。十人という少ない数の椅子を間違いなく彼女は誰かの為に空けていた。調査兵団以外に入るつもりはないから、そう言って何度か私を助けてくれた。
彼女の普通から逸れた言動は、ひとつの理由で説明出来た。
「私はね、アニ。死にたいの」
死にたい。はっきりと唇は言葉を紡ぐ。
彼女は死ぬために調査兵団に入るのだと、薄く笑いながら告げた。アニだけに言うね、なんて狡いじゃないか。
「未知の世界で、誰にも知られないまま」
そんなことを言っていた彼女が何故巨人の口内という、ありふれた死に場所で妥協したのか。それは今となっては誰にも分からない。
何故か何故かと考えるうちに、私は戸惑う。
名前も顔も分かるのに、どうしても『どうだったか』が分からない。優しく髪をすいてくれた手のひらでさえ覚えているのに、彼女の印象は思い出すたびころころ変わり、夢で見る彼女は毎回異なる表情を浮かべて私を見てくるのだ。
私はひどく困惑した。
一体彼女は誰だったのだろうか。
ぼんやりと外を見ながら、彼女が目の前で食べられる想像をしてみる。嫌な夢だ。違う、これは私の空想だ。夢じゃない。
あやふやになった境界線の上で、私の『彼女』はこちらに笑いかける。
『……アニ』
「ねぇ……なんで?」
勿論答えはない。答案用紙はどれとも分からない巨人の腹の中だ。
分かっている、分かっているのにどうして私は胸が苦しい?
『巨人』は『彼女』を完全に食べてしまった。私の本能が思考回路を焦がしてゆく。
嗚呼。彼女はなんてことをしたのだろう。
どうせ巨人に食われるなら、私が食べてあげたのに。顔見知りの巨人に食われるなんて未知の領域だっただろうに。
そうしたら、彼女の願いは叶えられたのに。
食べてやりたかった。
もし彼女が生きていたら、私の下らない提案に乗ってくれるだろうか。
進撃夢企画「私の英雄」さまに提出
/20130914
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