03



草を踏みしめて宿舎に戻る。
俯いた名前の頭をくしゃりと撫でた。

「……悪かったな。ひどいこと言ったろ」
「大丈夫。全員に三年間隠し通せるとも思ってなかったし。むしろジャンでよかったよ」
「そうか、ならいい」
「うん……ジャンはいい奴だね」
「気付くのが遅いな」
「ほんとにね」

くすくすと笑う名前。
目尻にまだ残る涙を見つけ、指で強引に拭う。
――どうにかして償いたいと思った。






「……なんか、罪悪感」
「気にすんなよ」
「……ん」

からん、とスプーンを皿に置く。色々言葉で説明して、食べさせて、貧相な知識を図書館の資料で補いながら試行錯誤する。

「味しない」
「……」
「なんでジャンがそんな顔するんだよ」
「悪い」

唇のスープをペロリと舐めとり、申し訳なさそうに眉を下げる。

「別に無理に付き合わなくてもいいんだよ」
「いや、やる」
「……物好きめ」




しかし、こんなことが出来る時間は限られていた。
上位十名の発表を迎え、巨人侵入を食い止めるための作戦に新兵が駆り出された。
ひとしれず、何人もの同期、先輩が死んでいった。
マルコは死んだ。名前は生きていた。俺も生きていた。

「……ジャン、変わったね」
「そうか?」

装置の整備をしながら名前はぽつりと言った。

「そう、変わった」
「…ところで名前はどこにするんだ? 前言ってた調査兵団で変わらないのか?」
「うん。ジャンはやっぱり憲兵団?」
「いや、俺は調査兵団に入る」
「……えっ」

名前が吃驚したのか声を荒げた。
信じられないといった様子だ。
やがて見開いた目が伏せられ、そっかと呟いた。

「……頑張ろうな」
「おう。なんだ、すんなり納得したんだな」
「ジャンの顔見たら分かるよ」

――またよろしく。
――死ぬなよ。
やけに真剣な目の名前に気圧されて頷く。
そういえば、こいつの味覚を取り戻してやることは出来なかった。あまりに無知で無力だ。
きっと名前は気にするなと言うはずだ。でも、俺は気にする。
あの時の震えていた名前が、名前の本心だと思うからだ。
調査兵団に入れば、余裕なんてなくなる。
班編成で離れる可能性もある。
死ぬかもしれない。
――ぐるぐる回る思考に頭を抱えた。


/20130819(愛悩、I know.)
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