理性とつま先



好きな飲み物はミルクティー。
今日は某メーカーのペットボトルのものを飲んでいる。じっと見ていたら一口くれた。これが名前の一番好みの味らしい。覚えておこう。
好きな色は紺と赤。
現在俺の目の前で真剣にスマートフォンの画面を見つめながら、新しいスニーカーをどちらの色にするのか悩んでいる。いつも周りに無頓着なのに、こういった類いのことには真摯な表情をするから少し反応に困る。

「高尾と俺ってさ、足のサイズ変わんないっけ」
「へ? あー、前一緒だって話したよな」
「そっか」

昼休みも残り僅か。机の下でスマホを操作して、時計を確認してから無造作にポケットに突っ込んだ。あと数分で授業開始のチャイムが鳴る。

「あれ? またカバー変わってんじゃん」
「んー、飽きちゃった」
「その台詞こそ聞き飽きたんですけど」
「そうかな」

名前は弁解することなく苦笑して席に戻るよう促した。すでに教師が教卓に立っている。そそくさと自分の席に戻った。
律儀に授業の用意を机の上に出して姿勢を正す緑間。それとは対照的に名前はペンケースとルーズリーフしか置いてない。ちゃんと授業くらい受けろと非難を込めて視線を送ると、ウインクが帰ってきた。違うそうじゃない。
それでも、無駄に決まっているから腹立たしい。



▽▲▽▲▽



本日バスケ部は珍しくオフである。本当に悲しいことだが予定はない。

「おはよ、高尾」
「……なんで名前?」
「来ちゃ悪いか」

部屋でだらけきっていたらインターホンが鳴った。確認すると、何故か名前がいた。お互いの家を知っているから訪ねてきたこと自体に驚きはない。
しかし――彼に今日がオフだと言うことを教えた覚えはない。いつも報告するたび冷ややかな顔して「で?」と聞いてくるのが常なので、何かに誘う時以外は教えていない。……はずなのだが。

「何で知ってんの?」
「……お前のスケジュール位把握してる」
「そんなこと赤面しながら言われても! ちょっと狂気を感じる!」
「俺の愛を舐めるなよ」
「今すげえ恐怖と共に実感してる」
「それはよろしい」

ふふんと得意気に笑って彼は左手に持っていた紙袋を差し出した。中身が何なのか全く想像もつかないが、とりあえず受け取った。意外と重い。

「……で、これ渡しに来たの?」
「うん」
「何でまた」
「特に理由なんてないよ。理由ないと俺は高尾に何かあげちゃいけないわけ?」
「そうじゃねぇけど……」

肝心な中身。紙袋の中を覗く。これってもしかして……前話していたスニーカーではないだろうか。右は赤、左は紺で色違いになっている。名前の足は紙袋の中身と逆の色をしたスニーカーを履いていた。右は紺、左は赤。
とたんに頬が燃えるように熱くなった。

「愛しの名前くんからの愛の形そのいちでーす」
「えっ、ちょ……」
「やってみたかったから誕生日まで待つのやめた。俺とお揃いじゃご不満?」
「んなわけないじゃん。嬉しいっての……」

満足げな笑顔が向けられる。すごい理由だ。これだけ愛されていると自惚れてもいいんだろうか。

「……俺もなんか考えよう」
「じゃ、ありがとうのキスとかどう?」
「変な漫画の読みすぎだっての」

わざとらしく顔を背けて言う。照れ隠しというやつだ。個人的には、別にしてもいいけど。
上から目線なことを考えていたら腕を引かれた。急に近づく唇と唇。

「まあキスに理由なんていらないか。ね、高尾」

無駄に生き生きしている名前の後頭部に腕を回して、力任せにさらに距離を縮めた。

「……言ってろよ」

そういえば、ここ玄関だっけ。驚いた名前の反応を見ることを優先させるために、そのまま唇を重ね合わせた。
ああ、でもこれくらいじゃ驚かないか。次は何をしてやろう。これこそ奴の思う壺なんだろうけど。


/20140811

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