天使の証明



なんて滑稽なのだろう、と思う。
絶え間なく訪れる事件の水面下で行われている嫉妬、嫌悪、果てには恋愛感情まで含めた女の争いに、なまえは辟易していた。こんな事件が続く中、よくもこんな下らない鍔迫り合いを繰り広げているのか、全く理解に苦しむ。

絶対なのは、シビュラなのに。
絶対なのは、シビュラに大きく関与している(これはわたしの推測の域を出ないけれど、確実であろう事実だ)あの子なのに。

目の前で眉を顰める霜月後輩にふわりと笑顔を向ければ、彼女の顰めっ面が和らぐのがわかった。
――そして刺さる、熱っぽい視線。熱くて熱くてたまらない、その熱。

「……なまえさん」
「霜月ちゃん、どうかした?」

この縋るような顔。掠れ、震えているこの声。たまらなく好きだ、と思う。
わたしにしか縋ることのできない、無駄にプライドが高くて、非力で無力で、まるで子羊のようにさえ思える、可愛いわたしの後輩。

「霜月ちゃんはてっきり弥生の方がいいかと思ってた」
「っ、それは……その」
「ああ、やっと気付いたの」

彼女は悲しげに視線を彷徨わせ、こくりと頷く。
胸元できつく握られた手が、もとより白い肌をさらに白くさせていた。ああ、かわいそうに。あなたはなんてかわいそうな娘なんだろう。
彼女が恋い焦がれていた女性の心は、すでに、彼女が出会う前から他の女性のものだった。艶やかな赤と、光を透過して煌めく金髪を思い出す。その人は、彼女よりずっと女性として魅力的だと思う。しかしわたしは逆に、彼女のなんとも熟れていない感じを気に入っているのだけれど。

「なあに、わたしは二番目だったってこと?」
「ち、違います!」
「なら常守ちゃんだってよかったんじゃない?」

わたしが敢えて引き合いに出した名前に彼女の眉がひくりと動いた。彼女はわたしの同期である常守茜のことを、それはそれは酷く嫌っていた。彼女たちをずっと見ていたからよく知っている。
サイコパスに濁りをもたらしかねない、強い憎悪と殺意だった。
それでもわたしは彼女が好きだ。

「冗談だよ。だって霜月ちゃん、いつも常守ちゃんのこと怖い顔で見てるんだもの」
「……っ」
「わたしのモノになるってことは、極力わたし以外の人に感情を向けないように努力してくれるってことでしょう?」
「ど、努力します……!」

わたしの滑稽極まりない理論を、彼女は真剣な面持ちで呑み込んだ。その度胸にわたしは感嘆の吐息を漏らす。
なんて盲目。わたし以外に縋る相手を見つけられなかった、なんて運のない女の子。その危うさ、青さに、わたしの全身が歓喜している。
あのね、あなたにはあのひとの魅力なんてわからないかもしれないけれど、邪魔はさせないわ。あのひと、常守朱というひとはね、シビュラが神とするならば、神の使い、天使のようなひとなの。天使っているのね、こんなとち狂った世界で。


だからあなたを愛せることがこの上ないくらい嬉しいの。
わたしが、ぜんぶ、塗り替えてあげるから。ねえ、すきだよ。



2015/08/13

←:back:→
≫top
ALICE+