赤い糸に縊ったけ
※軽く首を絞めている描写あり
唐突で申し訳ないのだが、同じクラスの佐伯虎次郎は、無駄にモテるやつだ。
彼のために断っておくが全然嫌味な奴ではないし、ひけらかすようなこともしない。
いたって普通に普通の、王道なイケメンである。そして滅茶苦茶にいい奴なのだ。
しかも名前までイケメンオーラが漂ってくるので、俺のような三下はその眩しさに俯き唇を噛むことしかできない。ううん、なんて無力。
この前遊びに誘われた時に紹介された幼馴染までイケメンだったので、イケメンはイケメンと引き合うのかと白目を剥いて痙攣するところだった。
無駄にモテると敢えて言及しているのは、彼に一向に彼女が現れないからだ。
同じクラスになり佐伯を認識した小学五年生から、現在中学三年生に至るまで、彼女がいたことがない。…少なくとも俺の知る限りでは。
優しくて頼り甲斐があって男前。佐伯は無駄にカッコいいのだ。
当然のごとく女の子たちは彼の『特別』になりたがった。
それを佐伯は延々と『部活に集中したいから』という毎回同じ言葉で切り捨てては、たくさんの叶わぬ恋心を殺して山のように積み上げてきた。某百人斬りばりの切れ味だ。
なんで俺が佐伯の彼女事情に詳しいのかというと、まあお察しの通り女の子からの探りを入れてこいという圧に屈した結果だ。女の子怖すぎる。
そして六角中が全国大会で敗退し、奴の伝家の宝刀『部活に集中したい』が使えなくなったとたん、今まで自重していた女の子が一斉に押し寄せ、たちまち我がクラスは阿鼻叫喚と化した。
覚えておかなくてはならない。イケメンは破滅をもたらす、と。
そんなこんなで俺は何故か佐伯の逃避行に巻き添えをくらい、暗い体育倉庫の裏に肩を並べて凭れている。
有無を言わせず手首を掴まれたので、つい先週までバッチバチに試合をしていた人間の筋力には逆らえなかった。俺の方がひと足もふた足も先に引退していたから、こればかりは仕方ない。
「……部活引退したら、彼女作るんじゃないの」
俺は乱れた息をゆっくり吐き出しながら、問いかけた。
きょとりとした顔が向けられる。イケメンはどんな表情でもイケメンだった。はあ、しんどい。
「なんでそうなるんだよ」
「は? 違うの」
「えっ、だからなんでだ?」
「部活に集中したいっていつも断ってたじゃん」
胡乱げな視線を投げれば、整った顔の眉根がさも不愉快そうに寄せられた。
「嘘だってみんな分かってたんじゃないのか」
「あは、悪い奴だな」
女の子が傷つかないように、彼はそう思ったんだろう。
薄々優しい嘘だと分かっていて、それでも女の子たちは佐伯の言葉を鵜呑みにした。そう信じたかったかったから。
「実は、もういたりして」
「いないよ」
「即答だなあ」
「…片思いを拗らせすぎたからね」
「えっ、なにそれ聞いてない」
初耳だ。
割と付き合いは長い方だと勝手に思っていたが、どうやらそうでもないようだ。
ちょっとへこむな。
「ええ〜なんだよ、言ってくれたら良かったのに」
「ねえ、名前」
するり、と佐伯の腕が伸びる。
骨ばっていて、少し汗ばんだ手が俺の首に触れた。どくどく脈が早まっているのを感じる。
そこに、ぐいと力がかけられた。
「言ってもいいの」
「は? なに、を」
「……好きだ。好きだよ、名前」
喉から空気がヒュッと音を立てて漏れた。
空気を求めて開きかけた口に、佐伯はためらいもなくキスしてきた。
熱い舌が侵入してくる感覚にくらくらして、状況に頭が追いつかなくて、思わず頽れそうになる。力の入らない俺の体を悠々と支えて、佐伯は笑っていた。
「たしかに、引退したら本気で行こうと思ってたから強ち嘘じゃないかな」
「…まって、え、なに、さえき?」
「逃がさないよ」
なんでこうなった。
俺は目を白黒させながら、くたびれた上履きを見つめる。喉元の佐伯の手にさらに力が篭った。
息が漏れる、熱を感じる、あつい、くるしい、薄い酸素が思考を奪ってゆく。
どこから、どうなって、どうして。理由は。何もわからないまま、俺は立ち尽くす。
喉元の手のひらの熱い体温が張り付いて、俺を搦め捕ろうとしているみたいだ。
――嗚呼、逃げられない。
観念したように目を閉じて、襲ってくる目眩に体を預けた。
「名前」
相変わらず優しい声だな、と的外れなことを思いながら俺は項垂れる。
赤い糸は知らぬ間に俺の首に巻きついていて、そして彼は縊り殺さんばかりの勢いで愛を囁く。
夏が、真っ赤に燃えて終わろうとしていた。
2018/05/26
すみません生きてます。ドリライ行ってきた記念に、3rdサエさん尊すぎ問題。
誰がきみのようなイケメンをフリーにすると思ってんだ!!!
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