参
私の足元にころころ転がっている薄汚い毛玉「なまえちゃんひどいよ!!」……もといシロという、かの有名な桃太郎のお供だったらしい犬っころ。もふもふしている。返り血が激しいから触りたくはないけど。
隣にいるからなんとなく名前を聞いた。話しかけてくるが私はまあ特にすることもないのでそれに応じる。
鬼灯さまとも交流があるらしい。あと申し訳ないが少しアホな子だ。
本日から不喜処の監視役という新たな仕事を仰せつかった。
ひたすら動物にばりばり食われて阿鼻叫喚な亡者達の図を眺めている。グロッキーな光景ではあるが、今までの仕事たちに比べたらかなり楽な部類だ。監視が主な仕事なのだから。
ド鬼畜補佐官とは「ご飯食べれなくなったらどうするんですか」「詰め込んでちゃんと塞いであげますから心配ご無用ですよ」「いいえ死ぬほど結構ですまあ死ねませんけど」というクソみたいな会話を今朝すでに済ましてきた。自分が想定していたよりも私の精神は弱くなかった。普通に、むしろ拍子抜けしそうなほど平気だった。
せっかくなので自己紹介のときにもらった鬼まんじゅうを食べることにする。こういうのは早いうちに頂いた方がいい。
「うん、美味しい」
図太い神経に感謝しつつちらりと前方に視線を向ければ、泣き喚く亡者と目が合った。
「ぎゃあああああああ!! たっ、助けてくれえええええ!!」
「やかましい」
ムカついたので頭を踏みつけた。ここではセーフなのでそれはもう遠慮なく、力の限り。念入りに何度も地面にぐりぐり押し付けて躙っておく。
「鉄板入りの靴とか便利そうだよね」
「物騒だよ! なまえちゃんって大人しそうな顔してるのにね」
「よく言われる。こっちに来てから性格が荒んだ気がしないでもない」
「元は何してたの?」
「普通に女子高校生だったよ」
「えーつまんない」
つまんないと言われても困る。ある意味普通ではないような気もするが、面白くもなんともないのでご割愛。やたら勉強を強要され、それに応えようとして無茶ばかりしていたクソみたいな子どもだったと思う。友達という友達もいなかったし、おしゃれなんて考えたことなかった。恋なんて知らないし、与えられた携帯はもはやお守りのようなオブジェクトと化していた。なんてことだ、青春の欠片も見つからないではないか!!!
「室町生まれのきみには分からない歌を教えてあげようか」
「えっ、なに?!」
「サインコサインタンジェントの歌。知り合いに聞かせたら驚くと思うよ」
「ほんと? 歌ならルリオ呼んでくる! あいつ歌上手いんだー」
とてとてと走り出したシロは、おそらくキジであろうトリを連れて戻ってきた。鬼退治仲間ならキジであっているはず。キジなんて見たことないから知らないけど。
綺麗な羽を羽ばたかせている。
「はじめまして、なまえです」
「ルリオだ。ところで何の歌なんだ?」
「サインコサインタンジェントの歌」
「さいん、こさいん? たん……なんだって?」
「ざっくり言えば、三角形の歌。いくよ、よく聞いてね」
〜さっいんこさいーんたーんじぇんとーさいたーこすもすこすもすさいたー
□■□ 後日談
「なまえさん、あなたですか」
「何がです?」
「シロさんたちに訳のわからない歌を教えたでしょう」
「ああ、あんなに流行るなんて思ってなくて。ただ加法定理と倍角の公式をジ○イアンの歌に合わせて歌っただけなのに」
「現世ではそうやって教わるんですか?」
「まさか。私の担当教師がちょっとあれだったので」
「……まあ、すごいシュールなだけなので構いませんけどね」
(……いいんだ?!)
/20141115
学生時代アホみたいに使ったし今でも覚えてるしなんなら歌える(先生がノリノリで歌ってました)
←:back:→
≫top