弐



汗が止まらない。地獄がこんなに暑いなんて知らなかった。衣替えしなくてもいいというメリットがあるが、貧弱な現代っ子にはなかなか堪えた。
いくら私が貧弱だろうが死ぬことはないのだが、死なないだけで苦しむことには変わらない。怪我もする。致命傷でもいつか治る。死ぬほど痛くても、治る。
だから怪我なんてしたくないし面倒なことには関わりたくない。鬼灯さんの蹴りを一度見たことがあるが、あれをまともに食らえるのは閻魔さまくらいだろう。私? ご勘弁願いたい。


数週間前から地獄各所を転々としている。仕事を覚えたと思ったら間を置かずに移動を命じられ、またその先でも同様。陰湿ないじめというやつではないか。
激務の中私が編み出したのは、鬼で体を冷やすことである。ありとあらゆる鬼を使役できる仮面の力により、氷系の鬼を呼び出してはそばに置いている。
年端もいかぬ鬼面を被った少年を隣に座らせる私。端から見たらただのショタコンだろう。この際ショタコンだと誤解されてもいい。暑い。

「……うーん。涼しいなぁ、お前」

彼らは喋らないので完全に独りで話しかけている状態だ。色々痛々しい人である。
少年は照れているのかいじらしい反応を見せてくれる。なにこの子可愛い。もうショタコンでいいや。
涼しくならないかな。それより休みが欲しい。地獄一巡するまで休みがないと聞いたときは冗談かと思ったが、残念ながら本当に休みがない。スケジュールを貰ったが全部埋まっていた。職権濫用怖い。

「つかれた……」

少年がおずおずと頭を撫でてきた。さっきから可愛いとは思っていたが、すごくいい子だ。癒し。私の癒し。
ああ、本格的に癒されたい。



「なまえちゃん」
「あ、お香姉さま。おはようございます」

朝いつも通りの時間に寮を出たらお香さんに出会った。姉さまを付けているのは私の趣味だ。
今日も美しい。帯が蛇なので正直あまり近付きたくないのだが、美女がどこかずれているごときでガタガタ抜かすほど下衆ではない。お慕いしている。もう少し地獄に慣れたら蛇さんにもご挨拶に向かいたい。

「お仕事は大変じゃない?」
「はい、大丈夫ですよ」

鬼灯さまから訳ありとだけ聞かされているのだろうか。よく気に掛けてくれる。それでいて詮索しないのだから出来た女性だ。
優しさだけで嬉しい。

「何かあったらちゃんと言うのよ」
「ありがとうございます」

衆合地獄は勤務予定にない。恐らく年齢のせいだろう。なので彼女と仕事場が一緒になることはないが、まあ正直衆合地獄には行きたくない。(体の)年齢的にお酒も飲めないし。用事もない。
今日からまた新しい仕事だ。本当にあの鬼畜補佐官さまは容赦がない。感謝しているが、そろそろ恨みたい時期だ。
とりあえず休みくれたらいいのに。就寝前に呪いを閻魔殿に向かって送る日課もしなくて済むのに。呪ったところで効きそうにもないけれど、その、精神衛生的に。


/20140812
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