壱




呼ばれた、気が、した。

何を言っているんだこいつは、と我ながら突っ込みたくなるような感想だが、これが第一印象だから仕方ない。勘弁願いたい。
あの男を無事お目当ての神社まで送り届けて、すぐ家に帰った。名前と素性――鬼灯という名前、それから地獄の閻魔様の補佐官をしているということだけ喋ってくれたが、あとのことは何も教えてくれなかった。当然か。しかし、こんなあの世のお偉いさんが来るほど私の生まれ育った田舎町は何かあるのだろうか。
さてさて。何かに呼ばれた気がしたが、幻聴だろうか。疲れているのだろうか。

「痛い……」

強かに打ち付けた顔面を保冷剤で冷やしながら静まり返った我が家を見渡す。変わった様子は見られない。
あっても困るのだが。あんな変な臨死体験は御免だ。
怪しまれても困るし、着替えて朝早く起きてシャワーでも浴びよう。
くあ、と欠伸を咬み殺して階段を上って行く。
今日は散々だった。明日もまた代わり映えのしない糞みたいな日常が待ち構えているのだと思うと嫌になる。
もう寝ようと布団に潜り込む。
最後に確認した時計の針は、丑三つ時を指していた。


□■□



誰かがいる。夢か。またあの世にでも飛ばされてしまったか。
ひとりの少女が何処か靄掛かった空間に立っている。肩あたりで髪を切り揃えた、ワンピースの少女。
少女はしゃがんで何かを拾った。お面、鬼のお面だ。少女はじっとそれを見つめている。
そこで気が付いた。あの少女が着ているワンピース。あれは私が幼少期によく着ていた、祖母が縫ってくれた、この世に二枚あってはならない筈のものだ。

「待って……!」

私の声に応えるように、少女が振り向く。少々大きいお面を被っており、その顔は見えない。
しかし。分かる。分かってしまう。
――あれは、私だ。


/20140602
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