:: 6:白の交錯
織と狡噛は隔離区画のエントランスにて監視ドローンに睨まれながら常守を待っていた。
カメラをかなりの頻度で向けてくるので正直蹴りつけたい衝動に駆られるが、それはそれで面倒な上、今日の予定に響くと困るのでやめておいた。
が、せっかく織が踏み止まったというのに狡噛がメンチを切っている。お願いだからやめてください。
今日は無理矢理三人揃って捩じ込んだ非番である。征陸や縢が協力してくれた。前に狡噛と約束していた本屋、それから常守の提案でランチを予定している。
「織くん、狡噛さん。おはようございます」
「おはよう」
「おはよう、常守さん。今日はありがとう」
「ううん、私も楽しみにしてた」
当たり障りのない挨拶から始まり、常守の運転する車に全員が乗り込んだところで車は滑らかに走り出した。
暫く街中を走っていたが次第に閑静な住宅地へと入り、その奥にあるこの辺りでは一番大規模な書店についた。
もともと紙媒体の本を扱う店は少ないが、この店は本好きのオーナーの道楽で開かれているらしい。
扉を開ければすぐに飛び込んでくる本の山。空間すべてが本に埋め尽くされている。織にとって初めての体験だった。白い頬が高揚し赤くなってゆく。
早速意気揚々と本棚の森に消えゆく織を微笑ましく目で追う常守と狡噛。無邪気に本を探る織は、いつもより更に幼く見えた。
「織くんが本好きだとは知りませんでした」
「ああ、意外か?」
「俗世離れした感があるので」
「織が好きなのは昔の文学ばかりだぞ」
「ええ、読んだことがないものばかりでした」
「俺も織に会うまで読んだことなかったさ」
彼は文学に何を見ているのだろうか。何を感じ、何を考えているのだろうか。
それは、誰も知らない。
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織は奥へ奥へと淀みなく歩を進める。足取りは軽く、瞳も輝いていた。
また新しい作家に手を出してしまった。彼の緻密な文体がいけない。読まずにはいられないのが本好きの性だ。
「っ……!」
すこし浮かれすぎていたようで、曲がり角で青年と肩がぶつかってしまう。
青年は沢山の本を抱えていたため、運悪く青年の腕から本が数冊零れた。
難なく落ちる前にキャッチし、念の為本の状態を確認してから返す。多分傷などはないはず。
「すいません、余所見してて」
「いや、構わないよ。大丈夫だ」
「そうですか? 良かった」
その青年は、一種の芸術のように恐ろしく整った貌をしていた。織と同じように色素のない白い髪と肌が、本棚だけの空間に浮かび上がる。
おもわず、声をかけようと口を開いた。
「……あの」
「ところで君。紙の本は好きかい?」
「はい。電子書籍は苦手で」
「見たところ、日本文学が好きなようだね」
織の抱き抱えている本のラインナップを眺めて青年は言う。対する青年は英文学ばかりを持っていた。
織はこくりと頷いて言葉を返す。
「外国語文学には明るくないので語れませんね、残念です」
「お嫌いかな?」
「内容はともかく、翻訳者という第三者の意識が介入するのが解せません。原文を読むにも僕の解釈が入ってしまう」
「なるほど、それは一理あるな」
何故か納得したような青年の言葉に戸惑って、まじまじと彼を見た。しかし青年は織に至極穏やかに微笑むだけ。
青年はそれじゃあ、と告げてから体を反転させ、向こうへ歩き出す。初めて会った人間をわざわざ引き止めて問い詰めることなどできなかった。
「またどこかで会えたら話そう。それまでに日本文学を一通り読み直しておこうかな」
「……あ、はい」
また会うことを示唆するような言い回しが気になる。
彼の残した言葉に首を傾げつつ、織もすっかり置き去りにしてしまった二人のもとに戻ろうと歩き出した。
/20130202
やっと槙島先生と会えました。
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