:: 10:或る少年
織の姿が消えた。
浮浪者の巣窟である地下街で、一斉摘発をしていたときだった。電波が悪く、中継ドローンや延長ケーブルを駆使して捜査に当たっていた。データにある地図は密かに開発が続けられていたため全く当てにならず、おおよその方角しか分からなかったため、取り敢えずそちらへ向かう。
宜野座が織を見つけ次第撃てと言いかけたそのとき、ドミネーターの銃声がわずかに聞こえた。
しかも銃声は一回で止むことはなかった。さらに立て続けて複数聞こえてくる。
無意識に体が走り出し、ようやく織のもとに辿り付いたときにはもう全てが終わっていた。あっけなく殺された大量の死体。すべて惨たらしく息絶えている。内臓やら肉片やらが大量の血でまみれて、そのフロアは天井まで赤く染まっていた。これを全て織ひとりでやったと思うとぞっとする。
近くには充電機能付きの運搬機があった。エリミネーターを連発するにはある程度の充電が必要になるため、連れてきたのだろう。そこまでしなくてはならなかったのだろうか。
慌てて我に帰り、部屋の隅で蹲っている織に駆け寄る。抱き起こしてよく見てみれば、織の体はあちこち傷だらけで、おまけに右腕の肘より少し上の辺りが折られていた。これではまともに握れないだろう。いまもなお左手は電源が落ちて文鎮と化したドミネーターを握って離さないままでいる。なにが彼をそこまで駆り立てるのか。
腕の中の少年が小さく呻いて薄く目を開く。鋭くこちらを見てきた。
「狡噛さん、まだ、ひとり…奥に、いるから……追って」
「まず手当が先だ」
「僕なんかどうでもいい!っ…ぅぐ、追って!追ってってば……!」
無口で無表情な少年だった。少なくともそういった奴だと思っていた。しかし今は瀕死ながらもまだ獲物を追う猟犬の顔をしていた。食らいついたら絶対に離さないという強い意志。
いきなり飛び起きてふらつきながらも走りだした。狡噛の持っていたドミネーターが奪われる。ユーザー認証ののち、すぐさま銃声。血飛沫が視界に広がった。
――悪を仕留めることへの執念。
織が崩れ落ちる。咄嗟になんとか体を抱き抱え、宜野座に連絡を入れ仲間たちに合流した。意識を失った、赤にまみれた白い少年と供に。
軽いはずのその身体は、なぜかずっしりと重かった。
▼
「なっ、あのあと13人をひとりで仕留めただと?! あいつは人間か?!」
「紛れもない事実だよ」
宜野座の有り得ないと言いたげな顔。
今は公安局に戻って織は集中治療室で治療中。骨折までしていたのだから当然だ。
まだ部屋に残っていた宜野座に事の顛末を話すと、予想通りの反応が返ってくる。
「……あいつになにがある? 何故あそこまで仕留めることに拘る?」
「記録にないか? 過去に何か事件に遭ったとか」
「特に記載なしだ。まあまあ普通の幼少期だと思うぞ」
「本人に聞くしかない、か」
不思議な奴だった。
あんな織をはじめて見た。感情を剥き出しにする所をはじめて見たのだ。その顔は、まるで――
織の本質を、見たいと思った。
/20130217
← back →
≫
top