:: 14:ぼくを見つけないで
槙島さんの指が治りかけの傷口にそっと触れた。僅かに痛みが残る。思わず表情に出してしまった。
包帯を巻いて貰えば、肘から下が全て包帯で包まれた状態になった。この下には、醜く引きつれたような、掻き毟ったような傷がある。きっと一週間もかからずに治るだろう。
「言っておくが織、君のせいだよ」
「勿論わかってます」
この傷は、自分自身を掻き毟って出来たものだ。
最近は珍しい位に落ち着いていた。不安定な日もあったが、自傷にまで至ったことはなかった。明らかに泉宮寺さんとの接触で、開けてはならない蓋を開けてしまったような気分だ。それは、何に対する嫌悪か。
「……所詮は僕だった、ということでしょう」
嘲るようなその声に、槙島さんは苦笑して「次は駄目だよ」と諭すように言った。
あの時、部屋に引き返したとたんに僕を襲った形容し難い嫌悪感は理性を喰らい、ひどく僕を掻き乱した。訳が分からなくなって、ひたすら泣きそうになりながら震えていたのをうっすら覚えている。
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それから数日後。傷はまだ癒えない。動くのには問題なさそうだが、まだ傷痕が完全に消えていない。
槙島さんに頼まれごとをしてそれを引き受けた。現在は車の中。やけに糸目な外人の運転に揺られている。
彼のことは、好きになれなさそうだ。これはただの本能的な、ぼんやりとした予感だけれど。
今回の僕の役目は『狩りの攻略アイテムとして機能する』こと。
正直あまり乗り気ではない。狩り自体好ましくないし、泉宮寺さんの趣味は理解したくない。加担だって不本意だ。
さらに槙島さんは、狩の"キツネ"が狡噛だという。
やる気の出ない要素しか見当たらないが、それでも僕は引き受けた。また会いたいなどといった不純極まりない動機だけで引き受けた。だから傍観者の櫓を蹴って、地に降りるわけだ。
会ったからといって、公安局に戻る気はないし、説得に応じるつもりも、ドミネーターで裁かれるつもりもない。
ひとつだけ。「死なないで」とだけ伝えたい。下らない僕の望み。
狡噛さんは、生きてさえすれば槙島さんを探しだし、僕を見つけてくれるだろうから。でも今は見つけないで欲しい。このままじゃ、どう足掻いたって僕の願いは叶わない。
/20130322
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