:: 17:勝者の哄笑、敗者の慟哭
――銃声がやけに頭に響いて聞こえた。
「あぶない……っ!」
「くっ!」
織の叫び声。間を置かずして肩と脇腹に弾丸がめりこんだ。
連絡を受けた宜野座たちの支援により、ここまでたどり着いたドローンからドミネーターを受けとることは出来たが、とんだ痛手を負ってしまった。この銃は、連射性はないが一発一発が重い。
再び発砲音がする。
「くっ! ……狡噛さんっ!」
織が反応が遅れた狡噛に覆い被さるように飛びかかってきた。二人そろって倒れる。その際に、運悪く彼の脇腹の内側を弾丸が深く抉った。小さく呻く織。
「っ、あ……!」
「大丈夫か?!」
「太い…血管、切れた……かも」
「……すまない。頼むからあまり動かないでくれよ」
「狡噛さん」
二発喰らった狡噛より、遥かに出血がひどい。やはり太い血管をやられたか。このままでは織のが先に失血死してしまうだろう。
織は、まだ言ってないなあと呑気に考えながら弱々しく狡噛を引き留めた。
「なんだ?」
「死なないで。何があっても生きて下さい」
「らしくないな」
「自覚は、ある…」
「俺も後々言いたいことは山程あるからな……行ってくる」
ふらふらする頭で狡噛を見送り、物陰へと重い体を引き摺った。そこで意識は朧げになる。視界が霞んでゆき、そしてなにも見えなくなった。
ああ。庇ったのはいいけど、これじゃあな。何もできやしない。
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浮遊感。抱き上げられたようだ。垂れ下がった腕がやけに重い。
槙島さんであろう、白い襟足が見えた。どうやらとっくに状況は動き出しているようだ。
狡噛さんはどうなったんだろう。焦点の合わないまま何とか目を凝らせば、壊された泉宮寺が見えた。
さらに見てみると、血溜まりに倒れ伏す狡噛がいた。生きているのが不思議なくらいに困憊している。
今度は手錠の音。近くに視線を戻した。ゆきが槙島に手錠をかけられている。待てよ……いまいち状況がのめない。
「やめて!放して!」
抵抗しているゆき。それを無視して、槙島は織を背負い、ゆきを連れて歩き出した。
「いずれ、また」
狡噛が手を伸ばすが、力尽きてぽとりと落ちる。何も考えられない。言葉もうまく出てこない。織の意識はまた闇に呑まれていった。
女性の悲鳴で、織は再び意識を浮かび上がらせた。ゆきだろう、と織は自己完結する。朧な視界ではよくわからない。視界は霞んだまま元に戻りそうもないが、聴覚は思いのほか明瞭で会話に耳を澄ます。どうやら槙島は常守と対峙しているらしかった。
「さぁ、殺す気で狙え。ドミネーターを捨てろ!」
発砲音。続いて、散弾の跳ねる音。
こちらに向かって放たれたものだが、誰かに当たった訳ではない。
「……あ、ぁ」
がしゃり、と銃が落ちる。
鈍い思考回路が導き出す、残酷な結末。
「残念だ。とても残念だよ常守朱監視官」
「いやぁ! 助けて…朱……!」
「君は僕を失望させた。だから罰を与えなければならない」
やめてくれ。
その一心で織は、力を振り絞って槙島の足にしがみついた。無理に動けば傷口が開いてまた血が溢れ、服を濡らす。嫌な感覚だ。
「っ…ぐぁ!」
頭上で槙島は柔らかく笑う。
「駄目だよ織、傷が開く。死にたいのかい?」
「…っ、う……あ、だめ」
「織は優しいね。そんなところも好きだよ」
「やめて! 織くんに何をするの!」
「何もしないよ。――織には」
「っ!…やめて……お願い」
無慈悲な、人の命を奪う音がした。
肉を切り裂く音がした。
彼女たちの叫びを最後に、織の意識はまた、ずるずると落ちていく。どうしても、抗えない。せめて何かしたいと思うのに、指ひとつ動かせない。気持ちに反して、意識はどんどん遠のいてゆく。この場につかまっていられない。
「やめてぇッ!!」
悲痛な叫び。反響する悲鳴。
それ以外何も残りはしなかった。
/20130324
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