:: 20:震える舌で紡ぐ
一行はエントランスにて難なくドローンを破壊。すぐさま管理区画を襲撃して、居合わせた職員を殺害した。ここまでの手際の良さは及第点といったところだろうか。
グソンが情報収集を始める。
「特に電力消費が激しいのは……二ヶ所。最上階と地下ですね」
「本命は、下と」
「そうでしょうね。上は電波塔、下は表向きは地下4階まで、あとは詳細不明ですから」
グソンの端末から警報が鳴った。
「何だ?」
「もうこっちに公安局の車が向かってます」
「驚かないよ。ねぇ、織」
「僕に振ります? まあ、狡噛さん達ですから」
「さて、あとどれくらいで追い付いてくるか」
「手動運転で飛ばせばそうかからないんじゃ?」
「……なんでお二人はそんなに呑気なんですか」
ふたりは楽しげに笑うのだ。緊迫した状況でも、周りを置き去りにして笑う。
「二手に分かれよう。僕は上、君は下」
「いいんですか?」
「狡噛は僕を狙ってくるだろう。なら、陽動を引き受けるのが合理的だ。君の働きに期待しているよ」
「分かりました、お任せを」
槙島がグソンを地下へ送り出す。そして織に向き直った。
「織はどうする? どちらでも構わないが。君の好きに決めたらいい」
「……じゃあ、上に」
槙島たちも少し遅れて上へと足を向けた。白い男が二人、ヘルメットの男が三人。実に奇妙な集団だ。
「僕を選んでくれるのか、嬉しいな」
「普通に言って欲しいんだけど」
「つれないね」
「つられた覚えはないけど?」
「あの時、僕の手をとって公安局を裏切ってくれたじゃないか」
「……そんなの、戯言だよ」
吐き捨てた筈の言葉が奇妙な温もりを帯びる。織は首を傾げながらも、十分に理由を理解していた。
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ノナタワーを目指して、一台のパトカーが疾走していた。ハンドルを握り、アクセルを踏み込む。こんなことが出来るのは手動による運転だからだ。安全性を捨てることによって、この速度は保たれる。
常守、狡噛、縢の乗った車がようやくエントランスに到着した。破壊されたドローンだけが彼らを出迎えてくれる。
常守がすべての責任を取るという横暴な理由のもと、唐之杜が裏口を使って監視カメラを制御していた。カメラによるサポートがあれば有利に事が進むだろう。これで槙島に近づける。
『敵は二手に分かれてる。上に五人、下に四人』
「槙島は?」
『上よ。アンテナ区画にいる。あれ、なんで? 織ちゃんがいるんだけど』
「織を連れているのか? 槙島は何を考えてるんだ…?」
「唐之杜さん、織くんの様子は?」
『普通に歩いてる。縛られたりとか、薬を打たれているような様子ではないわね。至って普通』
「そうですか……」
「下に向かったのはどんな連中だ?」
『それが、地下四階から行方が分からないのよね。メンテナンスハッチくぐって共同坑にでも入ったのかな』
「なにそれ? 気になるね」
相手の本命が分かってもなお、狡噛は槙島を追う。槙島に黒幕はいない。槙島を殺せば、全てが終わると考えているのだ。
「行くぞ、監視官。槙島を追う」
「でも下は?」
「俺が行くよ」
縢が名乗りでるも、常守は不安そうだ。それはそうだろう。上には槙島以外何もない。しかし、下には計り知れない何かがあるのだ。
「上には織ちゃんもいるんでしょ?俺、織ちゃんに勝ったことないんだよね……上のがどう考えたってヤバイんじゃないスか?」
「……分かった!気を付けて!」
常守と狡噛は頷いてエレベーターホールへと駆け出した。「無茶だけはすんな!」と狡噛が縢に向けて叫ぶ。縢はその言葉にニヤリと笑った。
「コウちゃんだけには言われたかねーよ」
その声は、なぜか楽しげだった。
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常守と狡噛は別制御になっている業務用エレベーターを使って上へ。槙島と織のもとへ向かう。
「槙島の目的って、一体?」
「槙島はオトリだ。織は、なんとも言えないが」
「そんな……主犯が囮役だなんて」
そんな奇妙な囮役――槙島は螺旋階段の上にいた。その下にはヘルメットの男が構えており、出入口間近には織がいる。誰かがこの場に踏み込んだら即座に攻撃するよう指示されている。
彼は待っていた。たったひとりの男がこの空間に現れる、その瞬間だけを。
/20130511
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