:: 24:やさしさと、それから
とある部屋。内装ホロなどは一切使われていない無機質な部屋だ。ヒーターの風音が聞こえる。
白くて広い部屋には白い男がふたり。マグカップになみなみココアを注いで、冷えた体を暖めていた。
「織、君はこれからどうするんだい?」
「……どう、って」
「僕に付いてきてはくれないのだろうから」
「そうだね。さよならだ」
真新しい服の袖を見つめ、織はなんとか槙島と目を合わさないように努めていた。目を合わせたら駄目な気がして、前を向けそうにない。
「でもすぐにまた会えるだろう?」
「どうだろう、死んでるかもよ?」
織はこれ以上槙島といても自分の願いが叶わないことに気付いてしまった。薄々気付いてはいたが、はっきり自覚してしまった以上もう前のようにはいかない。しばらくしたらここを離れ別行動となる。槙島とは違い、計画性に乏しい行動だ。
「ここにあるもので、織が必要とするもの、全て持っていくといい」
「……それはどうも」
「これによって、僕の命や僕の行動が脅かされたとしても、それは織の尊い意志によるものだからね」
槙島は分かっている、と言いたげな顔で織の髪に触れた。柔らかくかき混ぜ、ゆっくりと自然な動作で視線を合わせられる。
「っ……槙島さん」
「怒ってないよ」
「そう。なら、よかった」
槙島の表情をまじまじと見つめる。ようやく安心したのか溜め込んでいた息を吐いて、織が笑った。
「織が弟だったら、さぞかし楽しかったろうね」
「随分と異端な兄弟だ」
「それはそうだ」
織の瞳が悲しげに伏せられる。やっと上向いた視線は、再び下へ。マグカップのココアに歪な顔が映り込んだ。
「でも、そうだったら…槙島さんは寂しい思いをせずに済んだ」
「……織」
ぽつりと呟かれた言葉。これは織の野暮な推測に過ぎないが、槙島は今まで寂しかったのだと思っている。見つけてもらえない。存在しているという証明も出来ない。
自分だって寂しい思いをした。完全にシビュラに"いないもの"として扱われた槙島なら、尚更だと思うのだ。
「織は優しいね」
「ははっ、どこが? 結局自分のことしか考えてないよ、僕は」
嘲るようにまた笑う。今度の笑みは引きつっていて、どこか辛そうでさえあった。ふたりがこれ以上共謀することはない。
それから数日後。織はバイクや銃、その他のものを持ち出して、槙島の元を去ったのだった。
/20130728
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