:: 27:綻びる感情論
静まりかえった閑静な住宅地。開けたままの冷蔵庫の光をうっすら浴びる、いかにも怪しげなふたり。
雑賀宅でやっと槙島の目的が何であるかに辿り着いた。バイクを飛ばしたが時すでに遅く、槙島がすべてを終えた後だった。重要なものは残っていない。
現在のふたりは、どうやら食事に忙しいらしい。
「っぐ、んむ……! げほっ、ごほっ」
「お前の指紋は残したくないからな。堪えろ」
「やめて、触らないように食べるからっ……!」
やや強引に保存食を口に入れられる。ペットボトルの水を飲むときは袖を伸ばして触らないようにしていたが、固形物を無理矢理食べさせるのは止めて欲しい。喉に詰まるところだった。ゼリー飲料の蓋が空いたものを受け取って飲み干す。
「そもそも、足跡で人数なんてバレるでしょ」
「罪重織だと分からなければいい」
「……確かにバレると困るけど、気付くかも」
藤間によると、未だに自分の執行官登録は『特例』の形で有効だ。自分が本当に免罪体質なのか判断の最中なのだろう。ご苦労なことだ。
まだ織の権限が使用可能ならば、ギリギリまで隠すべきだ。仮にドミネーターが手に入れば使えるし、執行官としてのアクセス権限も残っている。しかも織に対する指令は一切出されていない。扱いは王霜学園内で行方不明のまま放置されている。
「なら我慢しろ」
「……うん」
狡噛がここでの最後の目的を達成したのを見届ける。これから、槙島がいる北陸へと向かうのだ。
「……気付くよね」
「誰がだ?」
「きっと常守さん、かな」
「それはギノが可哀想だろうが」
▼
バイクから降りて、ヘルメットを脱ぐ。空を見上げれば瞳に飛び込む満月。古来より、それは時折人を狂わせるモノとして描かれている。
ぎらついた目をした狡噛は狼か何かか。この際どうだっていい。寧ろ狼であればあるほど織の思惑通りになるだろう。
けれど狡噛が本当の意味で"狼"になってしまうのは嫌だ。出来るならずっと人であって欲しい。
稲穂が風に揺れ大きな渦を作った。出迎えてくれるわけではない。しかし、拒むわけでもないのだ。自然はいつでも変わらない。変化を遂げた人間から見て、変わって見えるだけ。
他人に変わらないでいて欲しいと願うくせに、いつでも同じでは人間らしくないから厭だと思う。それは致命的な矛盾だ。
馬鹿げた矛盾をまたひとつ抱える。
織の世界は矛盾と締観で出来ていた。たったひとつ抱える矛盾が増えただけ。それだけ。
言い聞かせても言い聞かせても、駄目だった。
「……狡噛さん」
「なんだ」
「死なないで」
「それ、前にも言われたな」
言った。何度だって言う。自分が生きている限り、彼が無茶をする度に何度でも繰り返すだろう。
「……狡噛さんは危なっかしいから」
貴方が生きていないと、この矛盾は永遠に綻びないから。いつかそれを紐解いてくれると信じている。嗚呼どうか、生きて。
/20130825
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