:: 22.5:error/no title
※藤間の一人語り
※読み飛ばしても支障はほとんどありません
彼には告げていない真実がある。
それは彼が知らねばならぬことかも知れないし、或いはそうではないことかも知れない。
藤間はあるひとりの「一員」から彼を託されていた。
彼――罪重織は、現在シビュラシステムの判断に於いて、免罪体質ではないと判断されている。記録に基づけば、『免罪体質に次いで生じた齟齬を抱える唯一の人物』と言える存在だ。
彼は、色相と犯罪係数が致命的に噛み合わなかった。一般的な人間とも免罪体質者とも違う、新たな『狭間』の存在。
シビュラシステムは、案の定彼の処遇を如何するか戸惑った。
犯罪係数は致命的なまでに高く、色相は全く汚れのない白。
それは、あまりにも噛み合わないふたつの事象だった。
潜在犯として隔離するか、一員として迎合するか。当然のようにシビュラの中で意見が割れた。
よくある多数決という形で潜在犯としての処遇が決定し、ごくごく一般的な矯正施設に入所。今日の教育カリキュラムを嘲笑するかの如く、優秀さを発揮した。
そこまではいい。
――ある「一員」が彼を執行官に、と推薦したのだ。
前代未聞の未成年登用。それは現場の人間や世論操作を含め大したことではない。
違うのだ。彼は今日、シビュラシステムなくして成り立たない日本に於いて、唯一だった。『色相と犯罪係数の不一致』というごく稀な『個体』。そんな彼をみすみす命の保証がきかない現場に放り込んでいいものか。またシビュラは大いに揉めた。
ある「一員」は「彼には経験が不足している」との旨の意見を出した。また新たな社会に触れれば、新たな変化がもたらされるだろう、と。
実際、彼の件の不一致は、新たな社会に触れたことに起因していたのはほぼ間違いないことであった。その意見は大半の賛同を得て、可決された。
貴重なケースを慎重に保存すべきという意見は相変わらず根強い。万が一には「一員」の誰かが裏でフォローすることも決まった。実際彼は優秀だったため、その必要もなかったが、槙島による彼の連れ去りはまさしく震撼と呼ぶに値する出来事だった。
槙島との面識のある藤間がこの任を受けるのは自然な流れだろう。
ある「一員」からはくどいほどに念を押され、この場で接触を図った。
間近で見た彼は、相変わらず儚げな顔をしている。昔に比べていささか凛とした面持ちで、こちらを睨みつけてきた。
ある「一員」の目論見の通り、新たな社会に触れることによって彼の犯罪係数は降下し、現在は色相・係数ともに模範的な状態だ。ただ、執行官登用という変化では駄目だった。免罪体質者と深く関わることによって、とても不安定な彼のサイコパスはそちらへと傾いたのだ。ついに、だ。
身勝手に、あるいは己を取り巻く環境に振り回されて変化していたサイコパスが、見事なまでに昇華した。
彼を免罪体質者だと見なさなかった判断は、また保留になる。このままかもしれないし、或いは戻るかもしれない。
ある「一員」は彼に随分熱を上げているようで、個性が許されているシビュラシステムとはいえ、なんとも言えない気持ちになってしまう。天下のシビュラシステムの一員が、イレギュラー因子を神格化しているなんて、まったく呆れるものだ。
全てが狂ったあの日から、彼は真っ白な無名のラベルを貼られてきた。整然と瓶が並ぶ薬品棚に仕舞って貰えず、埃のかぶったような狭い机の隅の方に置かれ、名付けられるのを待っている新薬のようだ。
彼は罪重織。名前はまだない。
真っ白なラベル、そこに何か名称を書き込まれることは、あるのだろうか。
2016/03/12
← back →
≫
top