:: 僕らの世界は繰り返せるか?
白いシーツにくるまりながら目を開ける。時計を確認すればもう朝だった。
乗り気がしない上に低血圧気味な頭はまだ目覚めない。今日は非番だ。二度寝といこう。再び布団に潜ろうとした所で扉が開いた。
「おい、いい加減起きろ」
「……あと5分」
「駄目だ」
無遠慮にやってきた狡噛によって力ずくで剥がされた。仕方無く床へ足をつけ、ベッドに腰を下ろしたまま狡噛をぼんやりと見上げる。
「せっかく非番なのに」
どうやら運動後のシャワーは浴びていないようで、髪は濡れているのに石鹸の香りは漂って来ない。
「……狡噛さん、せめてシャワー浴びてから起こしてよ」
「悪かったな」
さて、狡噛さんがシャワーを済ませている間に着替えを済ませようか。
仕事のあるなしに関わらず、基本的に格好は変えない。皆は色々な『黒』を纏う。自分もワイシャツにネクタイをしめてジャケットの上から黒いパーカーを着る。パーカーは嫌が応でも人目を引くこの白い髪を隠す為に欠かせないアイテムだ。
「で、何か用でも?」
「久しぶりにやろうと思ってな」
「ほんと勝手だね」
こざっぱりした狡噛さんは、また性懲りもなく汗に塗れようとしていた。もはや呆れさえ感じない。彼の生活パターンはよく知っている。
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「……がら空きだぞ、っ!」
「開けてるんだよ、っと!……うわ、何これ筋肉固い」
「……ふっ!」
繰り出される攻撃を最低限の動きでかわす。時々鋭く反撃をするが、八割方捌かれてしまう。例え当てても強靭な体はそれを跳ね退ける。
まず、体格。それに筋肉の量や質が違う。明らかにあちらのが上背があり、様々な戦闘経験がある。そんな狡噛の攻撃を知識と本能の縁に立ちながら、なんとか避ける。
彼から山程ダメ出しを喰らった。こんなひ弱そうな人間に一体何を求めているんだろうか。一回くらい舌噛んだらいいのに。
綺麗に脛を蹴れたと思ったがすぐに持ち堪えられ、そのまま狡噛さんに引き倒される。上手く受け身が取れなかったため背骨を痺れされる衝撃がびりりと痛い。
「はぁ…朝っぱらから全く……」
「いいじゃないか、たまには」
「嘘だね。しょっちゅうの間違い」
さらりと吐き出された言葉を切り捨てて立ち上がる。
まだこちらは朝御飯すら食べていないのだ。時計は十二時を回っていた。時間をあらためて認識したら、空腹感が急に訪れてくる。食事という本能の欲求を果たす前に手早くシャワーを浴びてしまおう。
「お昼、食べない?」
オートサーバーの昼御飯ののち、狡噛の部屋を訪れた。部屋は少しだけコーヒーの香りが漂っている。相変わらず無機質な部屋だ。人の事をとやかく言えた義理ではないのだが。
「ったく……予定が狂ったんだけど」
「本ならいつでも読めるだろ?」
「昨日の夜は完全に芥川の気分だった」
「……悪かったな」
「いいよ、また施設に突き返されたら読むし。死んだらその時だし」
「やけに後ろ向きだな」
「そんなものでしょ」
ぱらぱらページを捲り、栞を抜き取る。
「そんなことより狡噛さん」
「なんだ」
「貸した本は読み終わったらちゃんと返して。煙草臭いんで」
「気を付ける」
「うわ、気の無い返事」
ふとページを捲る手を止めて彼を見た。深い灰色の瞳が文字を追っている。
また視線をずらして、自分の手にある本を見る。何故か気が散って内容が頭に入って来ないので、気分転換にコーヒーでも淹れようと立ち上がる。
もちろん狡噛さんのコーヒーも淹れてやる。うんと濃くして淹れてやる。本を煙たくさせた腹いせに、可愛らしい仕返しだ。
/201307??
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