:: 2:因果率の破綻
常守朱が配属されたその日、罪重織の姿はなかった。それは何故か。彼が熱を出したからである。冷水を長時間浴びすぎて体調を崩したという残念な理由を彼女は知らない。
しかしそれによって常守が件の彼と、翌日に会うことはなかった筈である。――厳密に言うと、配属初日に狡噛を撃たなければ、会うことはなかっただろう。
パラライザーで撃たれた狡噛を訪れた常守と、熱が下がり彼のベッドの隣に座っている織はお互いに無言。その静寂を破ったのは、意外にも織だった。
「あなたが撃ったの?」
「はい」
常守の正直な答えに満足したのかふうんと興味なさげに呟いて、再び織は沈黙した。
「罪重織くんですよね? あの、昨日配属された常守朱です」
「どうも」
それをさせまいと常守は自己紹介をはじめるも、織はつれないまま。未だに視線すら合わせてくれない。
まるで懐かない猫のようだ。彼は猟犬のひとりに違いないのだけれど。
「常守監視官」
「は、はい」
「敬語は使わなくていいです。気遣いは不要ですので」
「……わかった。じゃあ、織くんって呼んでもいい?」
「お好きなように」
そういえば同い年なんだよね、と笑いかける常守の申し出に困惑する。逆らう謂れはないので頷いて大人しく従った。
彼女の手がそっと織の髪に触れる。織にとっては腕の動きで予測できた行動だった。特段、嫌悪感はない。まあいいか、と近づいてくる手のひらに大人しく目を閉じた。
優しく丁寧に、常守の指が髪を梳いている。まるで扱いがペットだなと思った。
「綺麗な色、だね」
「……そう、かな?」
「あと、宜野座さんから織くんは潔癖だって聞いたけど」
「うん? おおよそ間違ってないと思う、けど。正しいとも言えない」
「触られるのは、平気?」
「相手によるかな。常守さんは悪意がないのがわかるから、まあまあ平気」
そう言って淡く笑う姿が初めて年相応に見えた常守は、そっと彼に微笑みかえす。
潜在犯で執行官とは到底思えない人物だというのが常守の現段階での結論だった。
/20130116
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