▼ 弁解
彼は良い意味でも悪い意味でも、ちっとも変わっていなかった。
この学校に来ていることにも驚きだが、その変化のなさは異様だ。仮に成長期が来ていないのだとしても、あまりに華奢だ。日常生活を送るための最低限の筋肉さえも感じられない。
及川が恐る恐る質問をした。
「……もしかして、バレー、」
「続けてるように見えます?」
先程までの不安そうな表情からは一転し、忌々しそうに睨みつけられる。
そこで彼はハッとしたように表情を緩め、小さく弁明した。
――俺、膝が弱くて。小学生のときは無理矢理、騙し騙しでやってたんですけど、やっぱりダメでした。
その言葉にこちらが沈黙した。かけるべき言葉など、クソガキである俺たちには全く分からなかったのだ。
「……お二人との試合が、本当に最後だったんです。こっちに来たのは、単に親の都合ですので」
暗にバレーとはもう関係ないと言われてしまった。
偶然見つけたときは、及川が自分の後継者にすると意気込んでいたのに。
「ヒザ、どこが悪いんだ」
今度は俺からの質問だ。彼は逃げることを諦めたのか、すんなり答えてくれた。
「関節が発達不良?とかなにかで。皿が激しい運動をするとずれてくるんですよ。日常生活は送れてますけど、長く立ったり、走ったりはダメですね」
詳しくは子供なのでわからないんですけど。そう続けた。
「……そうか、悪いこと聞いたな」
「いえ」
彼はバレーを続けられない。覆らない事実を飲み込む。
隣の及川にもう行こうぜと声をかけた。及川は何だか名残惜しそうな顔をしていたが、失礼なこと聞いてしまった手前、今日は大人しく引き退った方が良いだろう。
「……れ、連絡先だけでも!」
及川が情けない顔で絞り出した声に、俺と彼の動きがぴたりと固まる。
「……は?」
「えっと、あの、うん……せっかく再会したんだし、いや、あーホラ! 先輩として何か困ったら、助けれるから、ね? お願い!」
「……ありがとう、ございます?」
気持ち悪いくらい必死に理由をこじつける及川の勢いに負けたのか、連絡先を交換して別れた。
なぜ連絡先を交換したのかわからないが、ただ及川の顔は真剣だった。
2016/08/30
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