| どうかぼくに朝を |
周が目を覚ますとカーテンの隙間から燦々と日光が差し込んできた。あまりの眩しさに再び閉じかけた瞼をなんとかこらえて、ゆっくりと体を起こす。
まだ時計で正確な時刻を確認した訳ではないが、朝と呼ぶには遅い時間であることは確かだ。周が夜の当番などを除いてここまで遅い時間まで寝ていることは珍しい。夜更かしをすることは多々あれど、きっちり朝には起きているのが常であった。
今回の例外を作ることになった張本人は何故かここにはいない。昨晩意識をはるか彼方まで飛ばす直前まではたしかに隣にいたはずなのだが。
いまだに覚醒しきらぬ頭で周囲を見渡す。そしてようやく、寝室まで漂ってくる良い香りに気がついた。
――出汁と醤油の混ざったような匂い。
「……は、ぇ?」
「あっ、周起きた〜? おはよ」
その声の主をぽかんと見上げる。
「おはよ、太刀川さん」
「なんだよ、もう慶くんって呼んでくれねぇの」
「昨日でおしまい」
「ちぇ〜」
彼はけらけらと笑って周の手を取り、優しい手つきで引き上げた。その行為の意図が分からず戸惑ってしまう。何度も瞬きを繰り返す。
「昼飯」
「うん?」
「作ったから。一緒に食べようぜ」
「……うん」
昨晩は起きたらどんな言葉で詰ってやろうかと思ったのだが、とんだ拍子抜けである。こうやって些細な出来事で絆されてゆくたび、好きでたまらないと自覚させられる。
洗面台で顔を洗い口を濯いでから食卓につく。
てっきり先に箸をつけているのかと思いきや、律儀に周を待っていた。
「冷めちゃいましたか?」
「ちゃんと調整して作った」
「流石ですね…」
思わず頬が引き攣る。何と彼らしい。
普段は適当なのに、好きなことになるととことん拘る。もう少しバランス良く励んで欲しいと思うのだが、その願いは恐らく叶わないだろう。否、そんなところまで含めて可愛いなと思ってしまうあたり、周のほうが重症だろう。
困ったなあとどこかひとごとに考えながら、つゆを最後まで味わう。うどんはたいへん美味しかった。なので何ら問題はない。問題ないのだ。
2020/12/13
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