| さびしいだらけの集合体 |
※過去話
今にも折れてしまいそうな華奢な肩と細い首。瞳は嵌められたガラス玉のようにただ景色をぼんやりと映し出すだけ。
両親を同時に失い、天涯孤独となった少年は、機械的な動作でゆっくりとこちらに視線を向けた。
嗚呼、まさに諦観だ。
まだ中学生だというのに、全てを諦めたと言わんばかりの諦観。煌めきもなければ淀みもなく、何も返ってくることはない。
忍田真史は、掛けるべき言葉を失ってしまった。
その様子を慣れた様子で一瞥して、少年は対面してからずっと続いていた沈黙を破り、初めて言葉を発した。
「……はっきり言えばいいでしょ、無理だって」
「いや、私は…」
――君を引き取る。はっきりと意思を告げれば、はじめて少年の無表情が崩れた。視線が揺れ、薄い唇を強く噛む。見ているだけで痛々しい。
生々しい傷が残る手を取り、できる限り優しく包み込んだ。
「一緒に暮らそう、周くん」
◇
鍔本周のご両親は、近界民によって殺されていた。彼はご両親の機転によって難を逃れるも、引き取ってもらうアテもなく困窮していた。
遠い親戚である自分にも打診があったが、会ったこともなければ名前も知らないような遠い親戚なのだ。
助けてやりたいとは思うが、自分は彼のご両親の命を奪った存在に一番近い組織に所属している。彼の心を余計に傷つけてしまわないかという危惧があった。
しかし、会った瞬間その考えは変わった。あんなに傷ついて、今にも壊れそうな彼を放っておくことなど到底できなかったのだ。
そして、周と一緒に暮らし始めた。
俗に言う思春期の少年とどう接したらいいのかと悩んでいたが、それは杞憂に終わった。
積極的に家事をこなしてくれている。弱音も愚痴も吐き出すことなく、毎日を過ごしているが、まるで絡繰り仕掛けの人形のようだ。
不気味なまでに穏やかで、少し怖くなった。側からみたら「いい子」なのだろう。それでも何とも言えない引っ掛かりがあった。
そして彼にははっきりとした線引きがあった。自分と、それ以外。彼の世界は閉ざされていた。
このままではいけないという焦燥感。どうしたらいいのか考えあぐねていたところ、珍しく周から話しかけてくれた。
「忍田さん、あの、ひとつだけいいですか」
「どうかしたのか」
「……職業を聞いても?」
唐突に切り込まれたその言葉は、呼吸を詰まらせるには十分すぎた。
「なぜ急にそんなことを」
「じゃあ聞き方を変えます。父さんと母さんを殺した白いバケモノと、忍田さんの職業に関連性はどのくらいあるんですか」
鋭利な視線が突き刺さる。
もうある程度察しがついていて、確認を取りたいような聞き方。一瞬でも言い訳をしようとした自分を恥じた。
「きみの方から尋ねさせてすまない。いつか説明しなくてはと思っていたが、どうしても踏ん切りがつかなかった。許してくれ」
――長い話をした。
色んなことを話した。一から順を追って、世間に知られていない近界民の存在を、そしてボーダーという組織のことを。彼が納得するまで、問答を繰り返しながら長い長い話をした。
間違いなく今までで一番長い会話だった。打ち明けられた事実に取り乱した様子もなく、終始落ち着いて聞いていた。もっと動揺するのかと思っていたが、その辺りも察しがついていたようだ。
周はすべての話が終わると、とても満足そうに微笑んだ。彼が笑っているのを久し振りに見た気がした。
「ありがとうございます。聞けて本当によかった」
「長らく黙っていてすまなかった」
「いいえ。……おやすみなさい、忍田さん」
「おやすみ、周」
……きみが良い夢を見られると嬉しい。
その日はちょうど金曜日だった。今日が金曜日でよかったと的外れなことを思った。
2019/05/12
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