| その色だけが未だ褪せない |
※唯我くん加入の件でちょっと揉める話
「抜けましょうか、おれが」
大スポンサーの息子をうちの隊にねじ込みたい――そんな突拍子のない話が振られてきた。誰もが戸惑い、言葉を発せずにいた最中だった。
周さんは涼しい顔のまま、眉ひとつ動かずにそう告げた。
「…は?」
「それで、いつからなんですか? 早めに合流して調整しないと」
「まっ、待って! 周さん、待ってください!」
これでこの話は終わりだとでも言いたげだ。まるでこっちがおかしいとでも思っているような。この人がなにを考えているのかまったく分からなくて、ますます混乱する。
瞬きすら面倒だと思っていそうだった。繊細な睫毛に縁取られた瞳は、凪いだように落ち着いている。取り乱しているこちらと、全く変化のない普段通りの周さん。なんで、なんでなんだ。
この場でひとり声を荒げている俺は、ひどく滑稽に見えているのだろうか。なんだか虚しくなってきた。視界が水の膜で歪んでゆくのを感じる。
「なに、出水」
「なにって、そんなのおかしいでしょ?! ねえ太刀川さん! 柚宇さん!」
「ッ…周」
「周くん」
だんまりを決め込んでいた太刀川さんと柚宇さんがやっと声を発する。まるで唸るように名前を呼んだ。いつになく情けない声だと思ったが、そう思う自分もさぞかし情けないことだろう。奥歯が軋む。
「あれ、最善策かと思った…んだけど……」
周さんがやっとこの場において一番少数派だということを自覚したらしい。だんだん表情が曇っていく。語尾がかつてないほどに弱く、辿々しい。
「そもそも周さんが抜けなくたって数の上限にはひっかからないじゃないですか」
「そうなんだけど」
「ひとりくらい増えたって処理しきれるもん、できるんだから」
「うん、柚宇さんならできると思う」
「じゃあなんで?」
ぱちぱちと色素の薄い瞳が瞬きを繰り返す。ふは、とひとつ吐いた息さえも、鼓動を早めさせる。どうしてどうして、周さんはこんなにもオレを狂わせるのだろう。
優しく細められた双眸がこちらを捉えた。息が詰まる。指ひとつ動かすのさえもどかしい。ただひたすら、ひたすらに紡がれる言葉を待つ。
「……外から見守るのも案外悪くないかな、って思って。エンジニアに興味もあるし」
「周のバカー!!!」
「ばかー!!!」
バツの悪そうに頬を引っ掻く周さんにまずは太刀川さんが飛びついた。続いて柚宇さんも加わってぎゅうぎゅう締め付ける。いや、物理的に締め上げられている。
この人は所々ズレているのだ。親しい誰かが軽んじられるとすぐに子供かよって感じで怒るくせに、自分のことは二の次三の次。自分に対する評価が真っ白だ。おれにしか出来ないことなんてないよ、なんて言うけどそんなの嘘だ。わかってない、なにもわかってない。この人ひとりだけが、わかっていないのだ。
困り顔の周さんと目があった。オレに最後の救いを求めているみたいだったけど。
――残念、周さん。
「周さんのアホー!」
「んぎゃ、出水の裏切り者…ッ」
トドメを刺した。支えきれなくなった周さんが床に崩れる。みんなで床に転がったまま、けらけら笑った。目尻にうっすら滲んだ涙はみんなで気付かない振りをして笑った。
断じて言うけど別に裏切ったつもりはない。なんせオレはもとからこっち側だからだ。周さんにはさっさと諦めて欲しい。
「絶対逃さないからな!! 周」
「ご、ごめんってば」
「罪は重いぞ〜周くん」
ぜったいに逃さない。新たな決意を密かに決めたオレは、周さんの腕を強く握りすぎてしまったらしい。
「……出水、ちょっと痛い」
「あっ…ごめんなさい」
「ううん、おれのほうがごめん」
優しい指がオレの髪を撫でる。周さんはやや幼い顔だと思うのだが、オレたちに向ける雰囲気や態度は大人びている気がする。近くて、遠い。果たして、その距離を変えることができるだろうか。
2020/04/25
とりまる脱退(引き抜き)→空白期間→唯我加入という設定で。もっと不穏にさせたかったけど頓挫しました
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