なまえは席に戻ると、ジェイドへ伝えたことを3人に報告した。なまえの、悩んでいたわりには素早いアプローチに3人も驚く。
「びっくりしたゾ……けど、オレ様の子分の進展に乾杯するんだゾ」
「そうだな。なまえ、すごいぞ」
「じゃ、写真撮ろうぜ!」
4人はセットについていたドリンクを手に取り、エースはカメラを設定すると、スマホ画面を向けて遠目に構えた。
「はい、チーズ!」
エースの呼びかけに合わせてなまえたちも飛び切りの笑顔でカメラに映る。撮影が終わるとエースが机の中心にスマホを差し出したので、3人も顔を寄せ、スマホを覗く。
「よぉし、オレ様今日も毛並みがツヤツヤでいい感じなんだゾ」
「目を瞑ったかと思ったけど、うん。きちんと写ったみたいだ」
なまえもグリムやデュースに続き、スマホの写真をチェックした。4人の雰囲気は非常に朗らかで、なまえ自身も眉間にしわすら寄ることのないリラックスした表情で写っており、思わず顔がほころんだ。
「あ、エース、またウィンクしてる」
「この顔のほうがイケてるっしょ?」
「エースって、いっつもウィンクでキメ顔なんだゾ」
「いーじゃん。得意なんだし」
そういうと、エースは何度も3人へウィンクを右、左と繰り返した。得意げに何度も繰り返すので、なまえは視力検査みたい、と笑った。デュースもエースを真似てウィンクをしてみようとするが、両目を瞑ってしまう。それに反応してグリムがデュースの目を見ながらウィンクすると、悔しそうにデュースが練習を始めた。
なまえは今までの不安が少しでも減ったような気がして、心から笑うことができた。モストロ・ラウンジ店内に、4人の賑やかな笑い声が溶け込んでいく。
「……お客様。ラストオーダーのお時間ですよ」
通路側からそんな声が聞こえ、なまえが顔を向けるとジェイドが伝票を持ったまま微笑んでいた。なまえたちは時間の経過に気づき、そのまま会計を希望する。
いつの間にか彼女たちは時間を忘れて閉店間際まで居座っていたようで、シフト終わりのオクタヴィネル寮生は退勤していた。レジ閉めのためか、ジェイドが4人の会計対応をする。なまえはギリギリまで店内にいたことに申し訳なさを感じてジェイドに話しかけてみた。
「長居してすみません……」
「楽しい時間をお過ごしいただけたようで、なによりです。なまえさん。また何かあればご連絡いただけるように、連絡先を交換しませんか」
「ぜひ! ありがとうございます」
会計終わりにジェイドの提案を受け、なまえはスマホのトークアプリをすばやく開く。ジェイドもスマホを寮服のポケットから出すと操作し、なまえに自身のQRコードを見せた。なまえはそれを読み込むと、フレンドに追加し、試しにメッセージを送る。
「届きましたか?」
「ええ。僕も送ってみますね」
「……届いてますよ! ありがとうございます」
スムーズに連絡先交換を終えると、4人はモストロ・ラウンジを後にした。ジェイドは店の入り口で、なまえたちが見えなくなるまで見送っていた。
「なんかホント、雰囲気よくなったよなあの店」
「かえってなんだか胡散臭いんだゾ」
「でも、高みを目指していく姿勢、僕はかっこいいと思ったよ」
「うん。私もデュースに賛成かな」
4人はそんなことを話しながら鏡舎まで戻り、それぞれ自分の寮へと別れていった。なまえは翌日の準備をする前に自室のベッドへ腰かけると、スマホでトークアプリを起動させ、ジェイドのトークルームを開く。連絡先交換の際に確認のため送りあった「なまえです」「ジェイドです」のメッセージのみが履歴に残っている。
『今日のディナーセット、おいしかったです。ありがとうございました』
メッセージを送り、なまえは風呂場へ向かった。入浴が終わりスマホをチェックすると、ジェイドからの返信があった。
『本日はご来店ありがとうございました。今日のメニューは、栄養がかたよりがちな学生向けにアズールが考案したものなんですよ』
なまえは、アズールが考案したことに非常に納得した。モストロ・ラウンジへ注がれる彼の熱量はすさまじい。彼らは普段からよくない噂ばかりで悪目立ちしがちではあるが、こういう努力は、周りから認められるべきものであり、実際に成果を上げている。
『メニューもオリジナルなんですね、すごいです。お陰様で元気が出ました!』
『僕やフロイドが考えたメニューもありますから、またお越しください。何より、働いてくださるのであれば賄いもお作りいたしますからね』
なまえが、「承知しました」と敬語のスタンプを送ると、ジェイドからもゆるめのキャラクターが敬語で「おやすみなさい」と言っているスタンプが届いた。普段から大人数、もしくはグリムありきで他者と話すことの多かった自分が、こうやって……それもあまり話してこなかったような人と会話ができている。そのことになまえはうれしくなって、部屋に入ってきたグリムを思いきり抱き締めた。グリムのお腹は、食べ物で満たされているのか大きくなっていて、顔に寄せると弾力とぬくもりが、ふかふかと柔らかい毛並みからなまえに直に伝わってくる。グリムは苦しさのあまり、力のない叫び声を発した。
ピンポーン
次の瞬間、オンボロ寮のチャイムが鳴り響いた。なまえは「はーい」と返事をすると、玄関へ向かう。
「オンボロ寮のなまえさんにお届け物でーす。サインをお願いします」
宅配ゴーストだった。彼は段ボールの箱を抱えている。それを見た瞬間なまえは気づいた。
……これは、50,000マドルのヘアアイロン。
「は、はい」
震える声で返事をして、なまえは受領書にサインをした。宅配ゴーストは受領書を受け取ると、引き換えに段ボールを渡す。
「ありがとうございまーす」
宅配ゴーストが去り、なまえはその場に立ち尽くしてしまった。その両腕で50,000マドルの重みを感じながら。
← →
text