夜半の夏 2




※R15程度







別に寝たい?と復唱されてさつきは神妙に頷く。
目の前に座る桐野は僅かに首を傾げていて、さつきがなぜそんな事を言い出したのかがただ純粋に疑問のようだった。
寝所に二組の布団を敷いていても実際に使用されるのは片方だけ。それは東京にいる頃からだったから薩摩で暮らし始めてからも自然とそうなった。だから桐野からすれば今更と言っていい程今更な話なのだろう。
それは分かる。
分かるんだけど。

「部屋を別にするとかいう話じゃないよ?布団を別にしたいだけ」
「……理由は」
「あのね、暑くて……」
「暑い……暑いか?」
「暑いか!?」

心底不思議そうに聞いてくる桐野にさつきはすかさず「マジすか」と突っ込んだ。もちろん口内で。
ダブルベッドのサイズなんかではない、シングルサイズの布団に身を寄せ合って……というか、囲われるような形でさつきは毎朝目覚めている。寒い時期ならいいのだが、今のような暑い盛りの時期は流石に辛い。
冷房でキンキンに冷えた部屋ならいざ知らず扇風機すらない時代だ。くっついて寝て暑くない訳がない。

「夜は大分涼しいが」
「私は暑苦しいんですぅ」

口を尖らせて恨みがましい視線を向けると桐野は腕を組みながら体を揺らした。苦笑している。
吉田は山沿いの村だし、コンクリ舗装された地面ももちろんビルだってない。ヒートアイランドとかいう都市部の殺人的な気温と比べるとどこだって涼しい筈だ。
桐野の言う通り夕方以降は随分過ごしやすくはなるのだけれど。

「……あ、それでか」
「ん?」

昼間の幸吉の微妙な反応が腑に落ちてさつきはひとり納得した。
ああ、まあそれならと思っていると、隣に並ぶ布団から移って来た桐野がさつきの前で胡座をかいて、右手で頬の丸みを確かめるように撫でてくる。さつきを映す瞳は至極優しい。日々泥や土を触る荒れた掌は東京にいた時以上の慈しみを以ってさつきに触れるようになった。

「夜寝苦しいって言ったら幸吉くんがそうかなって感じだったから……って、寝苦しいの私だけでは……?」
「っふ、」
「ちょっと。笑ってますけど、きぃさんのせいじゃないですか」

頬を緩めたままの桐野の顔が近付いて来たので反射的に瞼を落とすと唇にそっと熱が触れる。
そのまま胡坐の上に引き上げられるように背を抱かれて体を寄せれば、開けろと言わんばかりに舌先が唇をなぞるのでさつきはぐいーっと両手で桐野の胸を押した。

「だめ」
「ごまかされんか」
「これでごまかされたら私チョロ過ぎません?」
「はは」

笑いながらも桐野の手はさつきの背中から腰をさすっている。
ちゅと頬に唇が当たって、そのまま布団に寝かされそうな予感にさつきはぽんぽんと目の前の男の背を叩いた。

「もう、ホントだめですって。明日まで船漕いでたらきぃさん幸吉くんに叱られますよ」
「幸吉に?俺がか」
「私の心配をしてくれてるの」

押し倒す事を諦めたのか桐野が肘を枕にして横たわった。
そのまま空いた手がするりとさつきの手に重なって包み込む。緩く握り締められ、さつきも握り返しながら日中の幸吉との話を伝えると桐野が可笑しそうに笑った。

「抱かれちょるとは言わんかったんか」
「い、いえ、言える訳ないでしょー!ばかなの!?」
「ふふ、」
「暑いとしか言いようがない!」
「はっははははは」

笑いながら半身を起こした桐野が膝の上に頭を乗せて臍の辺りに鼻を埋める。
そのついでに尻を撫でてきたので悪さする右手をべちんと弾いてやった。
桐野は怒るでもなくただ笑っている。


疲れてないか、ちゃんと寝ているのかと聞かれた時、実はかなり焦ったのだ。
幸吉に気遣われた通り、日中のさつきは疲れていたし寝不足でもあった。暑さのせいももちろんあったが、主な原因はセックスですとは流石に言えない。
同衾が常になっている事なんて幸吉さえ知らないから、夜が暑くて寝苦しいのだと彼は普通に受け取ってくれた。良かった。

就寝時間は前後しても起床時間はほぼ決まっているし、手本になるべき大人が青年らを前に朝寝を貪る事は難しい。
それに桐野が従事する開墾・農耕に休日はないからさつきだってそれに倣う事になる。
つまり毎日平日。

その上で、だ。
ごく近い所に青年らが起居しているしさつきが医学校に行くようにもなったので、吉田に来た当初よりは身体を重ねる回数は減っていたけれど、代わりにその濃度が上がった。
四十八手してみるかなんて耳を舐められながら囁かれて慌てて首を左右したけれど、痛いとか本気で嫌がらなければこういう時の桐野は拒否権を与えてくれない。
気付けば何手かは試されていたし、イキやすい体位も感じやすい場所ももうばれているし、何なら開発もされている。

歴代彼氏は力任せで痛い事の方が多いセックスだったのに、桐野の触れ方は普段の力の強さからは想像できない程に優しかった。
桐野はさつきの深奥まで入って来て甘イキだったり奥イキだったりを教え込み、その上心も身体も大切に扱っていると分からせながら抱いてくるので、毎回快感が深く長続きした。
初夜でも気持ち良くて堪らなかったのに、その時と今では快感の質も感じ方も比べ物にならないくらい変わっている。
最中はとてもじゃないが声を抑えられない。

桐野とさつき、幸吉ら従僕と青年らと三者それぞれ異なる建屋に住んでいるけれど、彼らの所にまで声が届いていないか本当に気になる。
でもこの時期に雨でもないのに雨戸なんて不自然で立てられないから、吉田の家の防音力はゼロに近い。

だから、飲み込めない嬌声を敷布を噛み締めたり桐野の肩や腕に噛みついたり、口元を手や唇で覆われたり指を突っ込まれたりでごまかすしかなくて、結果酸欠になるのだ。酷く体力が削られる。
ただ妙なプレイでもしているような感覚にふたりとも変に興奮して盛り上がってしまって、もう一度もう少しとお互いが強請りあう羽目に陥っている。気付けばいつも丑の三つ時(二時)四つ時(三時)近く。

「手首縛ってみるか」「目隠ししてみるか」と目の奥をギラギラさせながら桐野が、優しさでしか触れてこなかった桐野が言い出した時には、あっ新しい扉開いちゃったかとは思いはしたものの、いつも通りの懇切丁寧さで散々イかされて、やっぱり滅茶苦茶盛り上がってしまった。
桐野が望むならまたしてもいいかなと彼が言い出すのを期待しているのは内緒だ。

要するにトぶほど気持ちいい、けど、疲れる。そして休息日がない。
そもそも桐野とさつきでは体力に差があり過ぎる。
桐野は次の日の事も考えて手加減はしてくれていたようだったけれど、特に清水馬場の本邸で泊ってから吉田に帰ってきた次の日は決まってくたくただった。


(まあ、寝られないのはきぃさんだけのせいばっかりじゃないけどさ……)

結局はさつきだって拒まないのだから、お互い様と言えばお互い様だ。自業自得。
身体を繋ぐ事で桐野の愛情を確認してさつき自身の気持ちの柱にしているのだから。
セックス無しでも愛されている事は感じていたけれど、最中の桐野は普段なら絶対に口にしない言葉を厭わずに沢山囁いてくれるから誘われれば拒否すべくもないし、さつきから触れにいく事だって多かった。
裸で隙間なく抱きしめ合って奥まで繋がって相手の心と体温を感じる行為は、今のさつきには何物にも代え難い幸せでもある。

ただ、それはそれとして。

「……今日だけでも別に寝ません?」

短めに刈られた髪に指を差し込んで梳くように頭を撫でれば、桐野は軽く身じろぎして仰向けになった。
閉じていた瞳が開いてさつきを映す。

「ね、今日だけ」
(わい)な明日の昼からまた医学校じゃろうが」
「だから余計にマズイよー。ウィリス先生の前で転寝なんてできないよ」

ころころと笑いながら返すと桐野の表情が少し拗ねたものになったのでさつきは余計に笑ってしまった。
さつきの前でしか見せない顔だ。この大男は存外かわいいところがある。
重なる視線に軽く首を傾げると桐野がすいと手を持ち上げた。伸ばされた指がさつきの目の下の皮膚をするすると柔くなぞる。

「……確かに顔が少し疲れちょるな」
昨夜無理させたかと聞かれてさつきは首を左右した。いつも通り怖いほど気持ち良かっただけ。
「私の事よりきぃさんの事の方が心配」

炎天下の中開墾地に出ずっぱりで夜は夜でやる事はある。基本屋内にいるさつきより桐野の方が確実に疲れるだろう。
その上で深更までさつきを抱いて、さつきが意識を飛ばした後、事後の後始末は全て桐野がしてくれていた。そういう時は多分二、三時間しか寝ていない筈。
正直に言うとさつきは自分よりも桐野の体調の方が心配だった。現代人からすると信じられないくらい頑強な人だと知ってはいても。

「……きぃさんもちゃんと寝ないとねえ」
「さつき、俺は」

問題ない、心配ないと吐き出しそうな薄い唇を左の人差し指の先でちょんと押さえて言葉を封じ込める。

「私にも心配くらいさせて?それに私の前でまでずっと元気でいなくてもいいから」
「……」
「きぃさんにも休みは必要だよ。それに開墾は長丁場なんだから無理は禁物。私学校だってできたところだし、御城下でも色々あるでしょう?私がいない方が休める?」
「さつき、そいは許さん」

過激な若者らの神輿になるのを避けて吉田に土地を求めた桐野は、用がない限り城下には赴かない。
だからさつきが居場所を清水馬場に移せばそれだけ桐野は休息を確保できるのだが。

「ならちゃんと水分取って、日中も休憩を入れて。それだけでも疲れ方が変わってくる筈だから」

今日幸吉君が薬缶ごと持って行ってみんなに飲み物配ってくれたでしょう?
そう尋ねれば、桐野は最初に渡されたと返事をした。その時に一旦休憩にもなったらしい。
昼間別れてから暫くして幸吉が薬缶を取りに来たのだ。自分が行こうとしたさつきを押し留めて、幸吉は一旦自分が配って反応を見てみると言ってくれた。
幸吉からもその時に纏まった休憩を取った事は聞いていたが、桐野本人の口から聞くと改めてほっとする。今日だって本当に暑かった。
ついでとばかりに軽く熱中症が起こる幾つかの原因と対処法を口にすると、桐野がそれで二才(にせ)らになるべく水を飲ませたいと言っていたのかと相槌を打ったのでさつきは頷いた。

「剣術の稽古している時もそうだけど……途中で水を飲む事は根性がないとか鍛え足りないとかじゃないの。本当に違うからね」
気合でどうにかできる事とできない事があるのだと、幸吉にも伝えた言葉を念を押すように言う。

薩摩(ここ)には薩摩(ここ)のやり方があるのはよく分かっています」

現代人からは信じられない程の男社会、その中で男の世界、子弟教育の方針に女が口を挟むのは本来なら大叱責ものだ。
それを桐野が許してくれているのはかなり特殊なのだとさつきも分かっているから、本当に気になった事しか桐野には伝えないようにしている。
そしてさつきにとってこれは伝えるべき事だった。
桐野と親から預かっている青年らの生命や健康を守る事は、これ以上なく大切な事だ。

「でも、できるだけきぃさんとあの子たちの体に負担が掛からないやり方を選んで欲しい」
「分かった」
ほっとして顔を綻ばせると桐野も吐息だけで笑ってさつきの手を握った。

「汝を盾にされっと如何しようもなかな」
「う、それは……ごめんなさい」
桐野については、彼が休めるなら暫く清水馬場にいた方がいいかと単純に思っただけなのだけれど。
冗談にせよ盾にと言われてしまうと確かに我ながら嫌なやり方だった。
(んにゃ)、ヨカ。汝がそげな事ば言う時はそれなりの理由があると分かっちょる」
「ん。ありがと……」

声と共に伸びてきた手が下した髪を緩やかになぞる。
せがむように名前を囁かれ、背中を少し丸めるとさつきは桐野の額に唇を当てた。

「……そこは口にじゃろうが」
「えー?」

不満とでかでかと浮いている拗ねた顔に吹き出せば、桐野は身体を起こしてさつきの腰に左手を引っ掛け、さつきを布団へと手加減しながら引っ張り倒した。
「えっ、わ!……」
どさっと寝転がると同時にさつきの視界には陰になった桐野の顔と天井が映る。
左手がするりと桐野の右手と繋がれて布団に縫い付けられ、足は桐野の両足に挟まれて身動きができない状態になっていた。

(今日はいやに子供っぽい事するなあ)

子供っぽいというか駄々っ子というか。
そう思って口元がにやけそうになるのを抑え込む。
それに気付いてむっと表情を変えた桐野がかわいくて、さつきは笑いそうになった。辛うじて我慢したけれど。だって後が怖い。
ただこのままだと次は唇が近付いてくるし、受け容れたらその先まで流される気がする。正直言うと嫌ではないけれど、さっきの今で続きを許してしまうのは流石にちょっと。
そう思っている間にも黒茶色の瞳が目前に迫っていて、さつきは右の掌でさっと桐野の口元を覆った。

「……今日はだめ」
「さつき」
「だーめ」

長嘆息すると桐野はそのままさつきの上にどさりとのしかかった。重い。
胸の谷間に顔を埋め、背中と布団の間に手を捻じ込んでさつきを抱きしめると、すーっはーっとにおいを嗅いでぐりぐりと額をすり付けている。
寝室以外では絶対にしないけれど、桐野はこの体勢が好きらしい。というかおっぱいが好きらしい。
まあ男はみんなそうだよね。胸か尻かに別れるよねー。ふたりだけでいると本当に普通の男の人だなと思いながら体を揺する。

「きーさーん、帰ってきてー」
くすぐったいのと、大きな子供みたいだなと笑ってしまいそうになる。
「きーさん」
こんな風に甘えられるのが嬉しくて止める気もなく止めれば、桐野は益々顔を胸に密着させて深呼吸を続けている。返事がない。

「よーし、別府さんにあなたが尊敬する従兄はおっぱい星人ですって言っちゃお」
「は?」

言われている事のニュアンスは分かるらしい。
がばっと顔を上げた桐野は若干焦っていて、そのらしからぬ反応にさつきはもう我慢できなかった。
短髪頭を胸に押し付けるように抱え身を捩って笑う。

「んっふ、ふ、きぃさん、ん、きぃさん好き、かわいい、大好き」

ちゅ、ちゅむとつむじに唇を寄せれば桐野の顔が上がる。
「かわいい」がお気に召さないのか表情は微妙で、でもそれすらかわいくて笑ってしまう。
目尻が落ちているのが自分でも分かる。
かわいいは愛おしいと同義だと知って欲しくて、目の前にずり上がって来た顔、その唇をぺろっと舐めるとそのまま口を吸った。

「ん、……んぅ、んー……」
「……はぁ……汝な…………」

ぱちりと目が合って微笑えば「良いんか悪いんかどっちじゃ」と桐野は呆れたように破顔した。
ふたりきりの時にさつきを見つめる桐野の双眸は琥珀糖のようにきらきらとして甘やかで、こうして触れ合う度にさつきは桐野から向けられる気持ちを確認する。

好きだなと思いながら顔を寄せて唇の端に軽いキスを送ると桐野がさつきの隣へと寝転がった。
もう一度肘枕の姿勢になった桐野に合わせてさつきもうつ伏せになり組んだ腕の上に顔を置く。桐野が髪を撫でてきたので、顔を横に向ければまた視線が重なり、目の前の瞳がゆるりと細まった。慈愛が零れ落ちる音が聞こえる気がする。
(好きだな……)
それに幸せだと思う。

「いつ帰ってくる」
「明々後日です」
「大分先じゃな」
「明々後日だよ?」

寂しいの?とおどけて聞けばああとまさかの、真面目な口調の、即座の肯定でさつきは目を丸くして顔を上げた。

「え、ホント?寂しいの?」
「ああ、汝がおらんと寂しい(とぜんね)

そう言いつつ爽やかな笑顔で身八ツ口から手を差し入れてふにふにと胸の感触を楽しんでいる。
言葉と笑顔と手つきのギャップが凄い。

「……や、やらしぃー……」
「はは、知らんかったか」
「知ってた。きぃさんはとってもスケベ」

桐野は大きく吹き出すと寝巻から手を引き抜いてさつきの頭で軽く弾ませた。
少し体をずらし囲うように腕を回してきたのでさつきも桐野と向かい合わせになるよう姿勢を変える。

「寝っか」

どうやら今日はしないというさつきの要望に副ってくれるらしい。
まあ、桐野はさつきが首を横に振れば無理強いしてくる事はなかったし、今だってもつれ合いたいというよりはじゃれ合いを楽しみたい感じだった。スキンシップはしてもさつきが別に寝たいと言い出した時点でそのつもりでいてくれたんだろう。

ただ。
(これは帰ってきた時はいつも通りの寝不足決定だなー)
間違いない。さつきも桐野も。

それに今日だけでも別に寝られたらと思ったのだけれど、背中に添えられた手にこれは無理だなあと苦笑と共に思った。
本当なら今日だけでなく身体の負担を考えて盛夏が過ぎる辺りまではそうしたかったのだけれど。

(ま、無理かなとはちょっと思ってたけどさ)

今日布団を別にしても城下から帰ってきたらまた一組になるのだろうし、今でさえ別で寝るという話がフツーにスルーされてなかった事になっているのだし。
きぃさんこういうところあるよねーと心の中で桐野利秋あるあるを指折り数えていると、当の本人が目元を緩めたままさつきを見下ろしていた。

「何じゃ」
「ん?暑いからちょっと離れようかなって」
考えていた事がばれないように流れるようにそう言って体を離すと、開いた分だけ桐野が距離を詰めてくる。
「…………」
「…………」
少し後ろにずれるとずれた分だけ詰められて背中に手が回された。

「……暑いって言ってるのに」
「はいはい、おやすみ」
「もー、すぐそうやってはぐらかす……」

喉の奥でくつくつと笑う桐野にグーをぶつけたが、離れる気は一向にないらしい。
よしよしとあやされて、逆にもう少し中に寄れと抱き寄せられる始末。
くぁぁとひとつ欠伸をして手を伸ばすと、桐野は枕元のランプの灯りを落とした。

「あんまい寂しい事(とぜんねこっ)ば言うな」

そのまま寝る体勢に入った桐野に穏やかに紡がれて、さつきは返事をする代わりに素直に目を閉じた。

(きぃさんがそこまで言ってくれるなら、もういいや)

これ以上はもう言わない方がいい気がする。
幸吉に心配は掛けたくないけれど、さつきだって桐野と一緒にいる時間を大切にしたいのだから。
さつきも小さく欠伸をすると桐野に体をすり寄せた。

「きぃさん、私がいない間ちゃんと休んでね」
「……ああ……水と………………休憩な」

あ、もう寝かかってる。
言葉と言葉の広すぎる間にそう思って、ごめんもう寝よ、と続けようとした時目を閉じたままの桐野が口を開いた。

「……今日飲まされた、あれは、」
「うん」
まずい(んもなか)…………」

さつきは吹き出すと両手で顔を覆って桐野に背中を向けた。



夜半の夏:夏の夜は短い 20220806

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