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少し落ち着いてきてからさつきちゃんが荷物の仕分けを始めました。
その様子を見てどうしたのかと尋ねてきた桐野に「壊すの」と。

「壊す?何故な」
「ここにあったらダメな物だと思うの。それにもう使わないから必要ないし……あれ、嘘まだ動く……」
トリップ当初はいざ知らず、時間が経つにつれ次第に触らなくなっていたスマホはまだ動いた。充電とかどうなってるの。
驚きながらも操作して、あ、まだ現代の歌聞けるんだと喜んでいるとついていけない桐野と目が合い、ボリュームを大きくしてみる。びっくりして少しのけ反った桐野に私の好きな歌ーとか無邪気なさつきちゃん。

「う…うるさい音楽じゃな……」
「えー?そうかなあ」
ジェネレーションギャップの壁は厚すぎた。

「こんなのもあるよ」と写真を見せれば明治時代のものとは次元が違うほど違うので随分驚いてる。紙じゃないしカラーだし。なんてったってスマホだし。
桐野に見せるためにサクサク画面変えていく。ここ私の職場ーとか、実家ーとか家族ーとか。で。

「あ」
え、何これいつの?こんなの撮ったっけ。忙しさにかまけて消し忘れてた元彼と写したのだったり。写真の存在自体忘れてた。
勿論何も言わずにさっと画面移動しますよ。さっとね!余計に怪しいっちゅーに。

「…誰じゃ」
「……………………お兄ちゃん」
「昔の男か」
「…別れて大分経ちます…」
まさか自分の過去を気にされる日がこようとは。
「何故別れた」
え、聞いてきたよこの人。
「あー浮気された挙句捨てられました」
「捨てた?汝をか?」
でも捨てられてて良かったのかもしれないとこっそり思う桐野だったり。それでさつきちゃんが浮気ダメと言っていた理由に激しく納得したり。

「家族や家が写っちょるもんを壊す必要はなかろうが」
そう言ってくれるのはすごく嬉しい。だってさつきちゃんが持ってる家族との繋がりなんてこれしかないんだし。
「でも、これはここにあっちゃいけないものだと思う。それにね、動かすのに充電…えと、燃料がいるの。それがね」
「ここでは無理か」
充電出来なければどうせ使えなくなるシロモノだ。残念だがそれは仕方ない。
「なら動かなくなるまで置いておけ。思い出じゃろうが」
「はい…」
言葉が珍しく命令形だった。
でも結局次の日には使えなくなって、なんでだろうと首を傾げたけれど、多分さつきちゃんが明治で家族を作る事が決定事項になったからだね。幸吉くんに手伝ってもらってあれこれと一緒に処分しました。


排水の問題で流しちゃいけない気がして使ってなかったシャンプー、コンディショナー、ボディシャンプーも一緒に処分してもらった。
シャンプー代わりに桐野の石鹸分けてもらって仕上げにお湯で薄めた酢を使ってます。
水も当然ながら塩素なんて混じってないので、思うほど傷んでない。
それに水が変わったのとあまり濃い化粧していないのとで肌の調子も少しいいかもしれない。え、何、もしかして今まで手間かけ過ぎてましたか。過保護すぎでしたか。
でも旅行セットを火に放りこみながら、これ使えたらもう少しマシだろうにと思わずにはいられない。
ここに来てから髪の味方はラ●ーナだけだったけど、それだって無くなるのは時間の問題。あああああグッバイさらさらヘアーと思っていたら次の日帰って来るなり桐野がなんかくれた。

「え?ありがとう……椿油?」
どうしようかとは思っていたけど口には出さなかったのに、なんで知ってるの?
「まあ、な」

桐野苦笑い。実は本人が口にしていないと思っているだけで、鏡台の前でボトル触る度にもう少しでなくなるなあとかどうしようかなあとか口に出してます。
でもさつきちゃんはそんなこと知らないのでこの人やっぱり髪フェチかと。
「…もしかしてきぃさん髪がさらさらなら幸吉くんでもいいんじゃないですか」
やだこの子一体何言いだすの。
「そりゃ堪忍でっせ」
しかも断る前に断られた。

そんな事がありつつも浅草で買った反物を縫ってます。
「まだ寝んのか」
「んーあともう少し…ここしてから寝る」
一時間経過。
「さつき?」
「あーうん。もう少しで終わるから…きぃさん先寝てて」
一時間経過。
「さつき」
「………あ」
針と反物を取り上げられてしまいました。もう少しで切りのいい所までいったんだけどなあ…

「熱心に縫うてくれるのは嬉しいがな、毎晩それでは体を壊す」
志麻ちゃん曰く「初めは縫い目かったかたで、かったかたで(二回目)どうしようかと思いました」。
でもコツを掴んできたら縫い目がきれいに揃うのが段々楽しくなってきて、暇があれば縫物ばかりをしているさつきちゃん。
桐野は思っていたより早くできそうなのと、頑張って縫ってくれているので嬉しいけれど、全然相手してもらえないのでちょっと複雑。自分が無理に頼んだ事だから強くも言えないし。
「これ終わったら辺見さんのも縫おうかなー」
やめてくれ

で、縫い物している時にふと思いつく。
「志麻ちゃん!蕎麦殻ない!?この袋ぱんぱんに欲しいの!」
流石に屋敷には無くて、結局出入りしている商人の所に出向いてもらってきた。何に使うんですか?と不思議そうにしている志麻ちゃん。
「枕が高すぎるの」(訳:箱枕なんかで寝られるか)
「坊主枕ですか」と言いながら手伝ってくれる志麻ちゃんを余所に「あーなんでもっと早く思いつかなかったんだろう。今日から安眠できるわー」とさつきちゃん。
そして次の日。
「志麻、何じゃありゃ。喧嘩か?」

さつきちゃんが桐野に怒っているのを見て辺見びっくり。そうだよね。
さつきちゃん大体自分が我慢することで問題をなかった事にしようとするし。
桐野に怒るなんてよっぽどだ。何があったの教えて志麻ちゃん。
「枕の取り合いです」
「は?」
「枕の取り合いです」
訳分からんけどとりあえず痴話喧嘩かと。
「先に辺見さんのお食事の用意しますねー」
志麻ちゃんの状況慣れの早さは異常。んなもんいちいち気にしてられるか。


着物はまだ蓮が咲いている間に仕上がって、それ着て蓮見に行ったり花火に行ったり蛍狩りしたり。
あっという間に夏が終わって秋が来て、冬がもうそろそろそこまで来ているという、そんな頃。

「さつき、荷物ばまとめろ。今から薩摩に帰る」

え?帰る?鹿児島に?

それが十月、西郷隆盛が所謂征韓論争に敗れた時のこと。


続く!(笑)


(12/4/1)(12/2/2)
MVさん椿油ネタ使わせて頂きました^^