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「ーーーで、”見かけたら声位掛けて下さいねってお伝えくださいな”だって」
「おー…今度いつ来るんだ。連絡先聞いたか?」
「いや…」
「聞かれた?」
「…………」
「は?何やってんだ…いつもなら速攻じゃないか、珍しい」
「…あの子は軽い気持ちで毒牙に掛けてはいけない気がする」
「毒 牙!」
微妙な表情で自虐的に吐き出した広瀬に秋山は笑い出した。

(毒牙って言っても広瀬の場合、何でか憎まれないからなあ…)
彼が自分で言う程の悪い印象はない。

見かけによらず女の子が大好きで、人知れずあっちこっちそっちに浮いた話があっても不思議と恨まれるようなことにならないのは、親友たちの間での七不思議のひとつである。
傍から見たらどう考えても一夜限りとか火遊びとか、そういう方向なのだけれど。
それでいいのかと思うけれど、相手はそれでもいいらしい。
あまり感心はしないにしても、双方大人であるし合意の上なら別にいいのかと秋山は思う。
要するに広瀬は遊び方が上手い男だった。
まあ、そうとは言っても…

「確かに遊びで手を出していい感じではないな」
「それに社名や肩書に反応しない子は久々だからなあ…」

妙な詮索も食いつき方もされないから、警戒をしなくてもいいし予防線を張る必要もない。だから変な疲れ方もしない。
職場以外で普通に話が出来る人間を見つけた縁は大事にしたい。
前に食事をしに行った時は楽しかったし、またあんな場が持てたらいい。
”そういう”やましい方向ではなくて…
友人になれたらと広瀬は漠然と思う。

「…しかしあの手の子には長く続いてる彼氏がいるっつーのが定石だろう」
だとすると流石に遠慮がある。
前は弱み?に付け込んで半ば強制で付き合わせたけれど、彼氏がいたらきちんと断ってくるタイプだろう。
「だよなあ」
肯首した広瀬を見ながらふと秋山が思い出したのは、この辺りではちょっと知られている”合コン女王”だった。
さつきの勤め先と記憶にある彼女の社名は同じで。
「広瀬、電話かけてみろよ」と秋山が促す前に隣の男は既に電話を掛けていた。



「女王と同期で大親友らしい…俺滅茶苦茶な言われようだったんだが」

え、さつきの事助けてくれたの広瀬君だったの!?から始まって、さつきの事を聞き出そうとすると、
『てめえふざけんじゃねえ』
様子が一変した。

はあ?一緒に食事に行った?お礼言ってお金返したいって言ってただけなのに何でそんなことになってんの?
まさかどこにも連れ込んでないよねえ。あっきーも一緒でご飯食べて十時前には車に乗せて帰した?ふーん、ならいいわ。
彼氏?何でそんなこと知りたいのよ。
分かってると思うけどあの子は遊びで引っ掛けていいような子じゃないんだからね!そんなんで絶対に手出さないで。
…は?友人?
え、それ本気で言ってるの?


「とりあえずは信じてもらえた。でもあの子に酷いことしたら覚えてろよだって…コワイ…何されるんだろう俺」
「女好きをばらされるんだろ」
そう軽くあしらったけれど、女王だって言うほど広瀬が悪いことをしているとは思っていない事を秋山は知っている。

「広瀬君は遊び方が上手だから後腐れないし恨まれないしね。それにあれは女子の方だって悪いのよ」
会社のネームバリューに釣られてあわよくばって思っても結局広瀬君に丸め込まれて終わりー
「でも刺された時は自業自得だと思うわ」

なーんて空恐ろしいことを笑って言っていた。
そして年下のくせして広瀬に対しては君付けで秋山に対してはあっきーだ。どうなんだ。


「でな秋山、彼氏はいないそうだ」
「……へー……」
意外。
「一年位前に酷い別れ方をして塞ぎこんでたけど、最近ちょっと元気になってきたって」

忙しいのもあるけど、そんな感じで多分あんまり出歩いてもないと思うから友人と思ってなら偶に連れ出してあげて。
『広瀬君が遊んでるのは知ってるけど信用はしてる。傷つけるようなことはしないって信じてるからね』


「とりあえず女王のお許しは得たらしいんだが」
「それは本人が決めることで、他人のお許しがいるようなことじゃないだろうが」
「いや…許す許さないとか俺たちがどうこうというより…変な男に引っ掛からないかを心配しているみたいだな」
前の男はよっぽど酷かったのだろうか。
しかし広瀬が順を追って今迄の経緯を丁寧に話せば、最終的に彼女はこちらの言い分に納得してくれた。
「女王に信じてるって言われちゃったよ。これじゃ変なことできんなあ」
あははと笑って広瀬は言ったのだが。


そんな気持ちはさらさらないくせに。
秋山はそう思う。

そもそも知っている子を助けたのにその時点で恩着せがましくもしていない、連絡先も教えてない。
一緒に食事をしに行っても相手の名前しか知らず、連絡先も聞いていない。
期待しているのは昼、アルマダで会って普通に話をすることぐらいだ。
それも彼氏がいたら相手にとって不都合じゃないかなと、そう思う位で。
女王が信用してると言ったのは強ち根拠がない訳ではなく、広瀬のこういう所を知っているからだった。

(悔しいがこういう点では確かにいい男ではあるよなあ…)
秋山は心の中でひとりごちたのだった。


(16/6/24)(16/5/20)