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名前を呼ばれて「秋山さん、お疲れ様です」とさつきは笑った。

アルマダで昼をとる度に広瀬か秋山のどちらかと、不思議と必ずと言っていい程会う。
ふたりの使う頻度が上がっているからなのだけれど、こんなに来てるみたいなのに今迄気付いてなかったなんて不思議ーとしかさつきは思っていなかった。

頻繁に会うようになったのでカウンター席に着いていたのがいつしかテーブル席に座るようになり、偶に夜にご飯を食べる約束をして、本当に普通にいい友人付き合いだった。
以前相談した同期に助けてくれた人が分かったことと、その後の経緯を報告すれば、
「ふーん…ちょっと顔見知りで変な人たちじゃないって分かってはいるけど…まあ、大丈夫だと思うけど気を付けてね」
よく分からないような返事をされてしまったのだけれど。

「お、秋山も来てたのか」
続いてやって来た広瀬が秋山の隣に座り、それ美味そうとさつきの前に置かれていたもうかなり減ったランチセットを見て
「同じもの、」
「ごはんで大盛りですねー」
バイトの女の子に先にそう言われて笑っている様子を見ると、
(大丈夫だと思うってどういうことだろ。何に気を付けることがあるんだろう…)
さつきは首を傾げてしまう。

席が同じと言っても限られた昼休み、約束をしている訳でもなく来るかどうかも分からないから、誰かが来るのを待たずに注文して先に食べ始めるというのが暗黙のルールだった。
秋山広瀬のふたりが待っている間にさつきは既に食後のコーヒーに移っていて、
「今日は忘れない内におふたりに渡したいものがあって…」
これ、と小さな紙袋を手渡した。

「バレンタインの…」
((!))
「友チョコでーす」
カウンターでマスターが笑いを堪えているのが視界に映る。
さつきもあははと笑いながら
「それでね、ちょっとお伝えしたいことが」
と口火を切った所で、秋山広瀬の背後で立ち止まった女性ふたりとばっちりと目が合った。

(わあ綺麗なひと…)
ひとりは美人系フルメイクでスタイル良し。
控えめなジェルネイルがとても綺麗で、如何にも仕事できます〜プライベートも充実してます〜というオーラむんむんだった。
もうひとりはゆるふわ天然系のかわいい子で、ちょっとおどおどした感じで美人の後ろに半分隠れるようにしてこっちを見ていた。

「広瀬君、秋山君、いないと思ったらこんな所でお昼をとっていたのね」
「あー…何か用?急ぎの仕事なら電話くれたら、」
「仕事の話じゃないの」
「秋山さんっこの人一体何なんですかっ」
「あ?そっちには関係ないだろう」
「関係ありますっ!だって…」

…なーんてこちらを指差しながら痴話喧嘩みたいなことを言い出したのでさつきは驚いてしまった。
不愉快だなあと感じつつ、こちらから視線を外さない女子ふたりに思わず苦笑。
空気読め感が凄い。
(……あ・あー…そゆこと…)
こんな場面で自分が取るべき行動ははっきりしていて。

「あなた、ちょっと遠慮してもらえます?」
そう美人が言い終わる前に、さつきは伝票を手に立ち上がっていた。
「あ、おい」
「如月さん、」
呼び止められてさつきは暫く言葉を探していたのだけれども、

「…今日は会えて良かったです。ありがとう…」
「え?」

困ったように笑うと、その一言だけを伝えてさっと席を立ってしまったのだった。


(2016/7/4)(2016/5/21)
きーせーつーはーずーれー