「話は聞いた」
「…何の」
社内で見かけた秋山の背中をぱんっと叩くと、向井は笑った。
「広瀬からと言えば分かるだろう?あいつは向こうの連絡先を知らんと言っていたが、お前もか?しゃっと連絡すれば済む話だろうが」
黙り込んだ秋山に向井は驚いてしまった。
「まさか…知らない?…」
マジかーと内心で呟くと、
「全く伝手はないのか?…そういや合コン女王のお許しがどうこう…そこから繋がれるだろうが」
ずけっと云いたいことを言う向井に、秋山が苦虫を噛み潰したような表情になった。
「あ、広瀬!こっち来いよ」
書類を抱えて会議室から出てきた同期を見つけて向井は無人のラウンジへと引っ張り込んだ。
「女王に電話かけろ。今ここで」
「いや、向井…」
信用してる、傷つけるなと言われての今回だ。
心情としてとても連絡が取りにくい。
「ならもういいんじゃないか?所詮その程度だったんだろう。それならそれで諦めろ」
「………」
「女には裏があるのが結構多いぞ。全部とは言わんが。アルマダにまで文句言いに行ったふたりがいい例だろう。ビスコッティも同じじゃないのか」
ビスコッティってと思いながら、あれっきりになっているのも何か計算があるんだろうと暗に言われ、流石にこのまま引き下がれなかった。
ここで連絡を取らなければさつきも同じような女だと向井に対して認めてしまうような気がするし…
何よりもそんな風には思いたくなかった。
そうして電話を掛ければ、
『おっそーい!電話かけてくるの遅いわよ!もう一ヶ月経ってるよ!?』
という女王の罵声から始まり、
『ちょっと、そこにあっきーもいるんでしょ、変わって!』
広瀬君もだけど、あっきーもいるからって思ったのに。
監督不行き届きじゃないの!?
さつき、もう会うことないと思うから話す機会があったら短い間だったけど楽しかったです、ありがとう、あと気にしないでねって伝えてって。
私キラキラ女子の邪魔してたみたい。調子に乗って何回も一緒にご飯とか、なんか悪いことしちゃったって。
何があったか大体の想像はつくけどさ…
どうせ嫌な思いさせたんでしょう?
秋山が経緯を話せば、
『ふーん…ま、それじゃふたりのせいではないかもね』
まあ、納得はしてくれた。
「なあ、彼女が来なくなったのはそのせいか?会いたくないというのなら仕方ないが…せめて嫌な思いをさせたのは謝りたい」
『謝るだけ?』
「…メ、メシ位は食いたい、これからも」
電話の向こうから吹き出す声が聞こえた。
『あははは!あっきー素直じゃん!いーよ、意地悪しないで教えてあげる』
今さつきが関わってるプロジェクトがそろそろ終盤で、ここでの仕事はあの日で終わりだったの。
あれからこっちには来てない。
渡されたチョコレート、義理にしては結構いいものだったでしょう?
お世話になったしあの日で最後かもしれないからって選んでた。
簡単にお礼言っただけで退散した、連絡先も交換してないからそっちが気にしてなかったらいいけどって。
”まあ…あっちは気にもしてないかな”って笑ってはいたけど。
「なんでそんな風に思うんだ」
『え、他に誰かいるの。スピーカーにしてる?…あ、向井さんかな。お久しぶり〜』
自分の勤め先が合コンしたい企業上位の優良企業だって考えたことある?
それにとっかえひっかえ遊んでるってみんなよく知ってるんだから。
さつきもふたりを見て凄く遊び慣れてる、女の子も扱い慣れてる、何だか住む世界が違う人みたいって笑ってた。
面白いけど、遊ばれてるみたいでちょっと怖いかなって。
「…………」
「…………」
「…………」
『これでほっといたら”いい経験した”で完全に終わるよ。というかさつきの中ではもう終わりかけてる』
ほったらかしにしてもう一ヶ月でしょ、連絡取りたいならそろそろタイムリミットだと思う。
で、どうすんの?
(16/7/15)(16/5/13)