袖:10






さつきの投げた言葉で秋山と広瀬の表情が引き攣った。
何で来るんだとか言われながらも付いて来た向井は、それを見て爆笑したくて仕方がない。

遊び慣れてる。女も扱い慣れてる。
住む世界が違う。遊ばれてるみたいで怖い。

そう女王から伝えられた言葉は目の前の女の本心で、
「終わりかけてる、そろそろタイムリミット」
という女王の見立ても恐らくドンピシャだ。

どうでもいいと思っている女は寄って来るのに(社名にという所が悲しい)、”友人”として真面目に付き合いたいと思う女には取り合われていない。
彼らは”友人”と言ってはいるけれど…
そんなのがいつまでも続くもんかなあと第三者の目から向井は冷静に見ていた。
(女一人に男二人ねえ…こいつら親友だろ。どうすんだ)


「楽しかったからよくご一緒させて頂いて…でも私も配慮が足りなかったです。ごめんなさい。あの後彼女さんとは大丈夫でしたか?」
「か、彼女はいないよ」
「だって前のおふたり…」
「あれは違う!」
「え?じゃあ益々私邪魔だったよね…」
向こうの彼女の恋路(多分)を邪魔しているわけでと、小声で呟く。
「…………」
「…いやっ、それは……」
笑いながら話すさつきと対照的に、かなり焦って弁解めいたことをしているふたりが本当に可笑しい。

「如月さんは女王の親友なんだろう?」

少し助けてやるか。
そんな気持ちで向井が途中で口を挟んだ。
女王?と首を傾げたさつきに苗字を告げれば、「ああ、女王!」と笑う。
「なら結構聞いてるだろう、俺たちの”内情”」
「えー…まあ、はい。そもそも御社は豪遊振りで有名ですしね…」
「…………」
「…………」
「ちょっと聞いていいか?」
一ヶ月前のあの時、女子社員に邪魔されなければ何を伝える筈だったのだろう。

「アルマダに来るのは今日で最後って伝えるつもりで」
「それだけ?」
「連絡先聞いちゃおうかな、どうしようかなって迷ってたけど……聞かずに済んで良かったかなって」
「「なんで!?」」
「おい」
向井はもう笑いを堪えきれなくなってきた。
「えーと、うん…まあ、気が引ける、かな…?」
困ったように笑ったさつきに秋山と広瀬はかなり不満げな声を漏らした。


あの時やってきたのは、確かに社内でもよく知られたビューティ&キューティだった。
それを見てさつきは「綺麗所に囲まれて仕事してるんだなあ、一流企業ってこういう所まで一流なのね」と。
更に「そういう人との出会いだって多いのだろうし」と思い。

綺麗で性格が良い子、かわいくて性格が良い子なんて周囲には沢山いるだろうに、態々こっちにくる理由なんてそう多くはない筈。
例えれば向こうは高級フレンチで、自分は家庭料理のようなものだろう。
フレンチが好きでも偶には平凡なものが恋しくなる、そんなものだと思う。

要するに、だ。

「遊ばれてる、暇つぶしされてると思ってた?」

向井の問いにさつきは答えず、ただ苦笑した。
全てではないにしろそう思うところはあったのだろう。

(そ、そんな風に思われてたなんて…)
(自業自得!?これ自業自得っていうのか!?俺は広瀬程遊んでないぞ)

がくりと肩を落としたふたりに向井は今度こそ爆笑した。

「で、実際の所はどう」
「本当に暇つぶしだったらこんな手の込んだことしないんじゃない?ってちょっと驚いてる…、かな」
「そか。じゃあ呆れて会うの避けてたとか…嫌いになったとかはない?」

広瀬が口に含んだソフトドリンクをぶっと吐き出した。
「え」
「うお!」
さつきと秋山が驚く中で向井がひとり声を上げて笑っている。
「はは!で、どう?」
「別に嫌になったとかは…後は連絡先知らなかったからっていうだけで」
「連絡先は女王に聞けば分かったよ」
「おい、向井…」
そこまで言えば少し険がある。広瀬が止めようとしたけれど。

「私は直接聞いていないし、それはちょっと違うかな…」
連絡されたら迷惑かもしれないし。彼女がいるなら尚更。
暇つぶしなのに勘違い女と思われるのも嫌だったし…
同期に間に入ってもらって、もしそこで彼女とふたりの人間関係がヘンになったら、とも考えた。

「それにそんなに気にしてもらってるなんて思わなかったし…」
だからあの子がおふたりと話す機会があった時に、ついでに伝言してもらう程度がいいかなって。


返事を聞いて笑みを深くした向井はペラペラとドリンクメニューをめくると無造作に、
「次何飲む?焼酎のロックとかいける?」
と聞いた。
「あー…」
「女の子はカクテルの方がいいか」
「…芋のお湯割りでお願いします」
思わず、お?と首を傾げれば、好きなんです焼酎と続いた。

「私度数の高い方が好きで…カクテルもXYZとかギブソンが好きで、カルアミルクとか頼めないんですよね」
かわいげがないってよく言われるんですけど、と笑う。
「男の人はカシスオレンジとかカシスソーダとか飲んでて欲しいものですか」

その飾り気のなさに向井も完全に毒気を抜かれてしまった。


(16/8/28)(16/5/29)  
家庭料理に飽きてフレンチを摘み食いするもんだよと突っ込まれるというおまけつき(よく考えりゃ墓穴)