Trigger-a:02






「長話」
「ごめんごめん。あっきーにありがとーって。それで広瀬君は暫く海外って?」
「一か月ぐらいって言ってたけど、ちょっと長引くみたい」
いきなり離れちゃって寂しくない?と聞かれて、さつきは肯首した。
「あら、素直に認めた」
「そりゃそうでしょ…ニ、三日に一回だよ?迎えに来てくれてたの」
「へえ…」

でもそんなに頻繁だと面倒じゃない?
広瀬君が来てそうじゃない時はあっきーから電話って、状況は状況でも私はちょっとしんどいかなあ。
そう言われて、さつきは軟骨のから揚げを口に入れた。
「うーん、そうだよね」

確かにそうだと思う。
でも不思議とそこまでの感じは受けていなかったりする。
一緒にご飯を食べに行っても不要に長引かない。電話だって同じで無駄話であっても長話ではなく大体において簡潔に終わることが殆ど。
向こうが忙しいということもあるのだろうけど、さつきがしんどさを感じる程ではなかった。
平日だと次の日の事もあるし…それは結構助かるのだけれど。

「なんていうのかな、ふたりとも付き合い方が上手っていうかあっさりしてるっていうか…パッと遊んでさっと引き上げる?みたいな?」
引き際がきれい過ぎて、時々物足りなくなる。

弥生が目を丸くしてしまい、さつきはきまり悪げに目を逸らしてしまった。
さつきだって自分が何を言っているのか、よく分かっているのだ。
「さつき…」
笑い出してしまった弥生に、そんなに笑わなくったって、と抗議すれば軽いノリで謝られて。

「それはどっちに対して?」
「…どっちも。でも、」
でも?
「今は広瀬さんが気になる」

さつきに向かってではなかったけれど、大勢の前で好きな女と言われたこと。
あの時は冗談を言う様な場面ではなかったし、そんな雰囲気でもなかったと思う。それに…

「キスされた…」
は!?と目の前で声が上がる。
「頬だよ?流れで…あ、近づいてきたと思ったら。でも向こうもびっくりしてたし」
「なんで広瀬君がびっくりすんの」

思わずの行動だったようで、こっちも「あっ」という感じだったけど、あっちも「あっ」という感じだったのだ。
驚いている内に広瀬は秋山に連れ去られるようにして行ってしまったけれど、
「あー…、次楽しみにしてる」
そう言い残された言葉にさつきも頷いた。


思いの外話が進んでいたようで、目の前の同期の顔には驚きが浮かんではいたのだけれど、
「そこまで押されてヤな感じはないんだ。なーんだ、それいつ付き合い始めるかだけの問題じゃない」
「そうなのかな………」
何か問題でもあるの?別にいいんじゃない?と言われ、しかしそのまま黙り込んでしまったさつきに弥生が苦笑した。

「やっぱり気になるか」
「だって…」
「遊んでるって知ってるからねえ。実際遊び慣れてるし?女の子も扱い慣れてるし?他にも似たような女がいるかもって思えなくもないし?」
肯首。

「どこまで本気だろうって思う気持ちも、前言ってたみたいに遊ばれてるんじゃないかなって思う気持ちも分かる」
たださっきも言ったけど、優しいだけで頻繁に送り迎えや電話する人たちじゃないよ。遊びだったら尚更。
それに”他の女とも遊んでる”とかは、さつきの話聞いてたら物理的に無理っぽいんじゃないかな。向こうも忙しいし。
家に泊めた時点で大体の事は分かりそうなものだし…
「ま、そこら辺は信じてあげてもいんじゃない?」

「さつきはあの人たちの勤め先を知った時どう思った?」
「大手の優良企業だなあと、合コンしたい企業上位だなー、位かな」
「感想は?」
「すごーい…?」
弥生がけらけら笑う。
「一般女子から見たら大企業勤めで独身、フリーのあのふたりは相当な優良株だよ。そこに一応関われたわけじゃん。しかも向こうからのお誘いで。普通は食いつくよ」
そこから発展させようと思わなかったかと問われて、さつきは頷く。

元々一回の晩御飯で終わる筈だったからその後があるなんて思っていなかったし、付き合いがこんなに続くとも、深くなるとも思っていなかった。
だから連絡先だって長い間知らなかったし、お昼を一緒に食べる位だったからそれもそもそも必要なかったし。

「さつきはさあ、二人に年収聞いたことある?」
さつきは首を左右した。それこそ必要ない。
「兄弟はいるかとか、実家が戸建かマンションか、持ち家か賃貸かとかは?」
「…弥生?一体何の話してるの?」
「うん?あの人たちは合コンで初対面の女からそういうこと聞かれる訳よ。長男かとか親の職業はとか。あの社名の独身男に女は群がるからねえ。寄って来るのってそういうのばっかりなんじゃない?社名にプラスしてあっきーは同期の出世頭で幹部候補だっていうのと、広瀬君は体目当てっていうのが加わるよ」
「………」
そこまで言われて、以前向井に同じことを言われたとふっと思い出す。
あのふたりは嫌な思いもきっと沢山してきたのだろう。

「向こうが話すなら聞くけど、私からは…。だって…普通そうだよ、そんなの私だって聞かれたくない。それに」
それに?と先を促されて、かわいそうと即答した。
「女だって同じでしょ。勤め先が大企業とか体目当てかとか、親の資産とか…」
近付いてくる相手が見ているのがそんな所ばかりだと、男の人だって絶対に傷つく。

そうなんだよねと弥生は軟骨をつまんだ。
「あのふたりは嬉しかったんだと思うよ、さつきのそういう感覚が」
何せ態々電話をかけてまで食事に誘って大丈夫なのか、気にする相手がいないかどうかを確認してきた位だし。
それにあの時は”普通に”付き合えそうな子だから、いい友人になりたいと言っていた。
出会いからして親切からの偶然で、始まりがそんな風だったから本当に下心があっての事ではないのだと思う。
友人というのは今や怪しいけれど、それはそれでいい。

「そうなんだ」
「そーなの。あー見えて案外ちゃんとしてるのよ」
「あー見えてって…」
あんまりな言い草に苦笑いしたものの、
「これからどっちとどうなって行くかは分からないけど、悪くないんじゃない?私さつきはあのふたりと案外合ってると思うよ」
はっきりと言い切られて口を噤んでしまう。
(合ってる…そうなのかな)
弥生が口にしたように悪くなさそうというのは、自分でも感じてはいるのだけれど。

「でもそういうことを考えられるようになって良かったね。元彼のこと完全に吹っ切れたみたいだし」
掛けられた思わぬ言葉にさつきは顔を上げる。

「………」
「………」
「ホントだ…吹っ切れたっていうか……完全に忘れてた」

存在を、と続けると、目の前の親友が声を上げて笑った。


会話劇…
<18/10/12>(17/03/30)