Trigger-a:05






「如月さん!」

待ってくれと声を掛けても先を歩くさつきの歩調は変らないままで、秋山は珍しく焦っていた。
やっとの思いで追い付き肩に手を掛けたが、それもパシッと弾かれてしまって。
咄嗟の反応だったのだろう、拒絶された秋山よりもさつきの方が驚いた表情を浮かべていた。

「あ…、ごめ」
「ごめん!」
「え」
「悪い、謝らせてほしい。嫌な思いをさせるつもりはなかった」
「………」
「森山もあんなこと言う奴じゃないんだ、ただあいつは俺を誘うのに利用されて嫌な思いをすることが多くて…ああ、くそ、言い訳だ。確かにみっともないな、俺」

本当に悪かったと頭を下げれば、暫くの沈黙の後相手の頭も下がった。

「ごめんなさい。私も言い過ぎました。散々助けて頂いたのに…あんな言い草ないですよね」
「いや、それはまた別の話だから…」
すまない、ごめんなさい、悪かった、こちらこそ、の応酬が何度か続くと、
「………」
「………」
どちらともなく笑い出してしまった。

「さっきのは八つ当たりです、ごめんなさい。それに秋山さんがあんな風だなんて思ってません」

本当ですよ?と申し訳なさそうに、それでも小さく笑いながらそう言われて、秋山は酷くホッとした。
秋山と広瀬には軽い女だと思われたくないと言っていたさつきの気持ちが今はよく分かる。
秋山だって目の前にいるさつきにはそんな男だと思われたくない。

しかしみっともないと言われたのは、これは正直堪えた。
森山も向井もきっと同じだと思う。
そしてさつきから投げられた言葉と共に、秋山はふと思い出す。
前に距離を置かれてその理由を質した時も、はっきりと言葉にはされなかったが「暇つぶしで遊ばれている」とさつきは思っていたようだった。
元々彼女が抱いていたインぺリオ社員の“人間”としての印象はかなり悪いに違いない。
自分達はさつきとの出会い方とその後がたまたま良かっただけで、”あんな風”だとは思ってないと言ってはくれたけど…

(今日言われたことを忘れたら、きっと痛い目にあう)
それだけははっきりと分かる。
それに嘉月が自分達を遠ざけようとしていた気持ちが今更ながら理解出来たのだった。
自分が嘉月の立場でも、遊んでいると分かっている男をさつきに近付けたいとは思わない。
元カレに酷い目にあわされたというのなら尚更。


「秋山さん」
名前を呼ばれて振り向けば、
「マンションも目の前ですし、もう大丈夫です。あちらの方に行ってあげて下さい」
秋山のことを待っているのではないか、なんてそんなことを言う。
「それで……今は流石に会い辛いので…如月が謝ってたって伝えて下さい」

若干言い難そうに繋げたさつきに、
「そんなに気を遣わないで欲しい」
そんな言葉が口から衝いて出た。
さっきのは森山が悪かったのだし、後で家に行くことになっているから向こうはいいのだ。

「それより、もう少し一緒にいさせてくれないか」
「え?」

さつきが目を丸くしたのを見て、あっと思い、いや、違うと否定しかけて、
「…いや、違わないな。もう少し…一緒にいられたら俺は嬉しい」
肯定の上に、如月さんが良ければ、と重ねた。

「………」

確かに自分でもかなり直球だとは思うのだが。
そんなびっくりした表情で、無言でこちらを見つめないで欲しい。
たった数秒だろう沈黙が酷く長く感じられ、これは撤退だなと、「帰るか」と口を開きかけた時、

「…近くに遅くまで開いているカフェがあって、そこでも」
「いい、行く」
「………」
「………」

前のめり過ぎた。
「秋山さん、かわいー…」とくすくす笑われしまい、少々バツが悪くて視線を彷徨わせたが、
「そこね、コーヒーがおいしいんです。久しぶりに飲みたいな〜……またコーヒーになっちゃいますけど、一緒に行ってもらってもいいですか?」
改めて誘われた上で、秋山さんが良ければ、と同じように被せられる。

「お供します」
そう返すと軽く声を上げてさつきは笑った。


あっきー(笑
(18/11/2)(17/4/28)