Trinity:01






完全に別れられた。
そう電話してきた友人の声を耳にして弥生は安心の息を吐いた。
元彼の存在すら忘れてたと言ってさつきが笑っていたのはつい最近の事だったのに、その数日後に元彼が現れるなんて誰が思っただろう。

その連絡を聞いた時は本当に驚いたけれど、
「今秋山さんの家なの。暫く泊まらせてもらうことになって…」
とさつきが言い出した時はそれ以上に驚いた。

しかし状況を聞けば確かに秋山といるのが一番安全に思えたし、別途秋山に聞けば今週中に片付けるなーんて言い切るから、これはもう秋山に任せた方が早く終わるなと弥生は確信したのだった。
果して解決は早かった。
早かったのだけれど、今度は違う問題が発生した。
いや、発生というより…

「う〜んそれは確かに…悩むね。広瀬君もだもんね…でもさつきも予感というか確信?あったよね?」
『それは…うん、…あった』

発生というより予測が現実のものとなったというだけで。
二人にどう思われているかなんて、さつき本人が一番よく分かっていた筈。
以前弥生はさつきに広瀬とは「いつ付き合い始めるかだけの問題じゃない」と口にしたけれど、話を聞いた感じでは秋山とだって随分いい雰囲気だったし…
十代じゃないのだ。別に好きだのなんだの言わなくても自然の流れでそういう関係になることの方が多いわけで。
話を聞く限りさつきは秋山と、…広瀬とも付き合ってると言われてもそうだろうなと思えるような所まで来ていたように思える…
のだけれど。

(あ、そうか)
大体そうかなと思っていても曖昧な事とはっきり言われる事は、受けるインパクトが違う。
(分かってたけど、いざはっきり言われたら驚いたか)
弥生は思わず苦笑いしてしまう。

というか、寧ろ秋山だ。
あの人働き始めてから「好きだ」なんて人に言ったことあるのだろうかと弥生は思う。
秋山本人から聞かされてきた女絡みの話は中々ハードで、お車代付きのたかりのような合コン、仕事を装っての仕事の邪魔、挙げ句の果てに勝手に合い鍵事件だ。
トラウマ…というか、女嫌いになっても仕方ないと思うような話ばかりで、弥生でなくても同情を禁じ得ないだろう。

(そりゃあね、さつき見てたら目が醒めるよ…)

親友は、見た目ではなく中味を見て好意を持たれる子だった。
しかし今までの男は時間が経つにつれそのさつきの中味、優しさに甘えすぎて関係をダメにしていった。
秋山と広瀬はどうだろう。
(まあ大丈夫そうだけど…)
合コンを切欠に知り合って数年の付き合いになるふたりだ。
プライベートの詳しい所までは知らないけれど、少なくとも遊びで女相手にここまでするような男でないのは知っている。
しかも好きだ恋人にしてくれだなんて…
曖昧じゃなく、関係にはっきりとした里程標を立てようとしているのが弥生にはよく分かった。

(あっきー目茶苦茶本気じゃない。さつきのこと逃がす気全くない)
本当に苦笑してしまう。 

『弥生?』
「あ、あー、ごめんごめん。あっきーも広瀬君も今の状態、大丈夫気にするなって言ってるんでしょう?」
うん、と小さな返事。
「で、明後日広瀬君を迎えに行くと」
『ん…』

(あー…)
その時に広瀬からも同じ事言われるな。
「さつき」
『何?』
「頑張って」
笑いながら突き放すように伝えれば、他人事だと思って、と恨み言が返ってくる。

「主導権はさつきにあるよ。主導権っていうより、あのふたりはさつきの気持ちを尊重してくれると思う。だから…」
さつきはどうしたい?
『……』
「それだけは決めておいた方がいいと思う」
『うん。…うん、そうだね』

「どちらかを選ぶにしろ選ばないにしろ、私はさつきが決めた事を応援するよ?」
「でもあのふたりが口を揃えて大丈夫って言うんなら大丈夫かなって思うし、変な事にはならないと思う…って今がすでに変か」
けらけら笑うとさつきも向こう側で小さく笑った。

「秋山さんと広瀬さんはあの元彼より遥かにまともだよ。それにさつきの事は話し合ってるんじゃないかなあ。今の状況にしてるの自分達だって、ふたりともが言ってるんでしょう?」
『うん』
「だったらそれでいいじゃない。さつきが嫌じゃない方に行けばいいよ」
『嫌じゃない方…』
「うん。だってもうこれ恋愛でしょ?いくら変な感じだって言っても。…子供じゃないんだから、違うなんて言わせない」
『……』
「好きか、嫌いかだよ」

だからどちらかを選ぶならそれでいいし、どちらも選ばないならそれでいい。
それ以外の選択肢があるのならそれでもいい。

「後悔しないと思う方を選んで」
『ーーありがとう…』




プツリと切れた通話に、は、と小さく溜息が漏れる。
何となく疲れてしまったけれど、前の一件があっての今回で、相談事をしてくれるようになった友人に弥生は口元を緩めた。

「弥生風呂空いたぞ。…電話の相手は…さつきか?」
「あ、うん、恋愛相談」
「……また変な男に引っ掛かってるんじゃないだろうな」
眉をひそめた彼氏に弥生は思わず笑う。
「んー…今回は多分大丈夫」
「どうして」
「知り合いなの。しっかりした人達だから…」
「……達?」
「うん。大丈夫だよ」


また弥生ちゃんとの会話から始まってしまった…そして合コン女王には彼氏がいました。笑
19/3/9<2018/10/14>