Trinity:04






広瀬と秋山は顔を見合わせると無声で笑った。
さつきからの思いがけない告白に驚いたものの、やはりと思う気持ち半分、ほっとした気持ち半分だ。

ふたりはさつきのことについては変わらず情報共有していた。
だから今回は秋山から広瀬に、さつきとは別途に状況の連絡をしていたし…
随分妙だなと笑いながら自分たちの気持ちの変化も、彼女の変化も口にし共有していたのだった。
ふたりともが相手を認めていて、その上彼女があいつを選ぶならと互いに思っていたから、普通なら泥沼だろうに随分といい雰囲気での付き合いになった。

しかし。
秋山と広瀬がそれぞれに友人関係を超える雰囲気を、態度を、言葉を口にして…自分達はそれでも良いだろうが、間に挟まれる彼女は…?
今までの経緯を聞けば彼女は男と付き合うのに慎重だろう。
それにもし付き合うという話になった場合、自分達がこうである以上選ぶのは彼女だ。
もろもろに板挟みにされて少しかわいそうかと思い始めた頃、電話口で様子を察した広瀬がさつきの戸惑いを言い当ててしまった。

この頃には自分達ふたりともが同じ事を考えていたと秋山も広瀬も思う。
”この関係のまま三人でいられたら”

だから気持ちの変化に不安を抱き始めたさつきに、ふたりが期せずしてかけた言葉は「大丈夫」だった。


『しかし…俺達は良くても彼女はどうよ?一番立場が悪くなるのは彼女だ』
流石にイレギュラーだしなあと電話口で呟く広瀬に秋山も相槌を打った。
「その辺りはこちらの態度で随分変わると思う」

嘘をつかない。ごまかさない。
関係が破綻するような隠し事はしない。そして今まで通り堂々と。

『彼女に引け目を感じさせないようにするだけってことか』
「ああ。周囲には三人でいるのが普通だと認知させる」
『秋山こえーよ』
笑いながら応じる広瀬に秋山も苦笑いしてしまった。


『ま、俺も賛成する。今更他の男に渡せるか』
「ああ」
『今更だがお前とも長い付き合いになりそうだなあ。とゆーか俺達兄弟どn』
「言うな」
まずは彼女の意思を確認してからだろう。
『否定はしないのかよ』
げらげら笑う広瀬に秋山が苦笑いする。

『あの子俺の事も秋山の事も同じように好きだよ』
「ああ」
『だから彼女自身が一番困ってる』
ひとつ点頭。
『まー…秋山論理で納得させてやれよ』
「俺かよ」
適任だろ?と悪びれなく言い放った親友に秋山も笑ってしまった。



――だから、ふたりはこちらからさつきを引っ張り込むつもりでいたのだ。
それが。

「……」
「あ」
「おい広瀬…」
前触れなく、ぎゅうとさつきを抱きしめた広瀬に秋山とさつきが声をあげる。

「あー…さつきさん」
はい、とくぐもって聞こえる返事。
「俺たちと付き合って」
「え?」
「付き合おう、三人で」

きょとんと目を丸くして見上げてくるさつきに広瀬が笑う。
「え、…え?」
テンパるさつきに秋山も笑った。
「俺も同じ意見。それで…さつきさんも同じだろう?君が嫌でないなら、…俺たちふたりと付き合ってほしい」
戸惑いを孕んだ瞳に秋山がくつりと笑う。

「あの、でも、」
「うん」
「……」
言い淀む様子に大丈夫だから言ってと促せば、

「ふたりはそれでいいの?だって、」
「確かに普通とはちょっと違うけど、な。俺は秋山ならまあ」
「俺も広瀬ならいい。それよりも君と一緒にいたいと思う方が大きい」

「…選べないからふたりともって言ってるんだよ?」
「前にも言ったが、そうさせたのは俺たちだから」
「あー…そうだな」
「…いいの?本当に大丈夫…?」
恐々とした小声での呟きをふたりは笑顔で肯定した。



そろそろ離れろよという秋山の突っ込みに広瀬がさつきを解放すれば、おずと秋山へと伸ばされる手。
それを掬うようにして拾えばさつきはホッとした表情で微笑った。

「……急に何かを変えようとしなくていいから」
秋山の言葉に、え?と漏らしたさつきに広瀬が後を続ける。
「そうだな。今の状態を無理に変える必要はないよ」
ゆっくりいこう。

「ただスキンシップは増えると思うけど、それは許される?」
「ゆ…許されます…」
「君はいずれふたりの男に抱かれる事になるけど、それは?」
秋山が盛大に噎せた。

「おま、イキナリ何聞いてんだよ」
口をぱかんと開けて驚くさつきを余所に秋山がばしんと広瀬を一発。
「いや…でも大事な所だろう?」

俺は好きな子には触れたい。

臆面も無く真顔で言い放った広瀬に秋山も妙に納得してしまった。
それもそうだな。
というか、そりゃそうだ。

「……」
「……」
「…あの…」

「…多分………ょうぶ…だと思う…」

目は泳ぎまくっていたし声は小さかったけれど、拒絶はされなかったことにふたりは胸を撫で下ろした。
確かに大事な所だ。



「これからよろしく」

口にしながら広瀬がさつきの手を取れば、秋山も便乗して、
「俺もよろしく。広瀬もな」
「おお」
「あの…よろしくお願いします…」

「……」
「……」
「……」

これ本当にいい大人が付き合いだす時の会話か?
妙に真面目な雰囲気で、しかも三人で手を繋いで。周りから見たら怪しい事この上ない。
誰かが吹き出すと後のふたりも笑い出した。



「広瀬、お前今日はこのまま帰れるのか」
秋山の言葉に、あ、と広瀬が目を見開く。
と、その時、
「広瀬」
掛けられた声に男ふたりの肩が跳ねた。
ギギギギという音付きで広瀬が振り返ると、そこにいたのは上司の八代六郎で。

(八代さんの事完全に忘れてた…)

ゲートを出てすぐ目の前に現れたさつきに、上司の存在が頭から飛んでいた。
一緒の便で帰ってきたのだ。後から来るはずの部下が一言もなくいなくなったので戻ってきてくれたのだろう。


無意識にさつきが隠れてしまう位置に立ちそうになる。
が、隠さない、堂々と、と秋山と言い合った事を思い出して留まった。
さつきと秋山は既に手を解いていたけれど、広瀬とは繋がったまま。
空気を読んで彼女がそっと手を引き抜こうとする気配にそれを握り締めた。
繋いだ先から小さな驚きが伝わってきて、ふっと笑う。

「八代さん、すいません」
「いや、取り込み中に悪いな。秋山も」
「いえ、お久しぶりです」
若干居心地悪そうなさつきをそのままにして二言三言挨拶と仕事の話をひと通り済ませれば、八代が面白そうに繋がれた手に視線をやった。

「年貢を納めたか」

噂は聞いていたが、と繋げた上司の言葉にさつきを見る。
噂?と小さく首を傾げた彼女に秋山も視線を留めていたが、すっと彼女の手を取ると、

「「俺の彼女です」」

は?と漏らした八代と、ふたりの間に挟まれて真っ赤になって固まったさつきに広瀬と秋山は顔を見合わせて笑った。


おしまい!

→あとがき


あーゆー事をはっきりと聞いてしまうのがここの広瀬です。笑
2019/4/1<2019/1/31>