エスケープ



私が呆然と尻餅をついている間にも、周りの人間たちは事態収束すべくせかせかと動いていた。
あの散ってしまったヘドロは奇妙な服装を着た人達によって回収されていた。


「(一体どうなってるの......? あの女の人さっきまで凄くでかかったわよね? あの木みたいな人、あれはなに? スーツ? そういう種族なの? )」


頭が状況に追いつかない。


「(……まさか)」


訳が分からないこの状況で、頭にずっと浮かんでいた仮説。
信じたくはない、だけど信じざるを得ない。



きっと、ここは私の知らない異世界だ。



魔法界でもマグル界でもない、私の現実とかけ離れた世界。
あのアメリカンコミックが証拠だ。
巨人族並のパワーを、見た目はアレだけど仮にも一般人が出せるわけがない。

きっとローラとのあの交戦で魔法がぶつかった時に飛ばされたんだ。
こんなことになるならもっとしっかり呪文術の授業を受けておくんだった......
後悔先に立たず。そんな言葉が似合うこの状況をどうすればいいのか、うんうん考えている時、ふと横を見るとさっきの緑頭の少年と目が合った。


「(こんなにヒョロっこいのに、よく立ち向かおうと思えたなあ)」


じぃっと見つめていると、少年はハッとしたかと思うとワタワタ慌てて変なポーズで顔を隠している。


......なんのポーズだろう?


不思議に思い、思わず彼に話しかけた。


「Ah... Are you all right? (大丈夫?) 」

「へっ!?......あっ......えっと......その...... 」


もっと変なポーズになった。


「Haha.....you're so funny. (あなためっちゃ面白いね)」


手の関節どうなってるの?っていうぐらいグネグネしたポーズになっていく彼がなんとなく面白くて思わず笑ってしまう。

思わず手を伸ばしかけた時、私と彼の目の前にガタイのいい、腹部がパッカリ開いてる青い服を着ている巨男が、ものすごい剣幕でズンズン迫ってきた。

そして、怒鳴った。


「キミ達!!! 」


思わずビクッとしてしまう。
隣の彼はササッと足を折り曲げて、しょんぼりと項垂れていた。
私も慌てて咄嗟に同じ姿勢をとる。

すると別の人たちもわらわらと私を取り囲んで、何かを一生懸命語りかけてきた。


「危ないじゃないか!! あの状況で飛び出すなんて!!」

「君たちが危険を冒す必要は全くなかったんだ!!!! 」


何を言ってるのかさっぱりわからない。
だけど、きっと今叱られてるんだろう。
危なかったじゃないか!みたいな感じ……?


「(......そんなに怒鳴らなくてもいいじゃん……) 」


危なかったのは確かにそうだけれど、なにも出来ずに見ていることしか出来なかった人たちに何も言われたくない。考えてみたら凄く理不尽じゃないか。
なんだかムカムカしてきて、ムッとした顔を隠すようにずっと下を向いていた。

黙って聞いていれば終わると思ってずっと下を向いていたら、突然肩を叩かれた。
するとそこに居たのは、さっきまで怒鳴りつけてきた奇妙な服装の人たちではなくて、今度は警察官のような服装をした人だった。


「ところで君、保護者はどこかな? 」


ニコッと笑いかけられるが、目が笑っていない。グッと肩に置かれた手に力が入る。


「不可抗力とはいえ、君は個性を使ってしまったからね。相手に直接危害を加えなかったから今回は厳重注意のみだけど、一応保護者への連絡はしなくちゃいけないんだよ。」


何を言っているのかわからないので首を傾げることしかできない。
そんな私を見かねたのか、その人は何かを考え込み、突然立ち上がって同じ服装をした人たちの元へ行き、何かを議論し始めた。

隣にいた緑頭の少年は、先に解放(?)されていた。彼が立ち上がった時、チラリとまた目が合った。何かを言いたそうな顔をしていたが、他の大人の人たちに急かされて彼は行ってしまった。

すると、先ほどの警察官みたいな人が私のそばに来て、何かをペラペラ話した後、急に私の腕を掴んで来た。


「(え、えっなに!? )」


連れられるままについていくと、今度はパトカーみたいな車に乗せられそうになる。


「とりあえず、署で保護になるから! 」

「(いやだから何を言ってるのかわからないんだってば!!! )」


その警官は強引に私を車に乗せようとしてくる。


「No!! Stop!!! 」


必死に叫ぶが、返ってくるのは訳の分からない言葉ばかり。言葉が伝わらないもどかしさと、どこに連れていかれるか分からない恐怖でどうにかなりそうだった。

周りの人達は事件後の現場の様子に夢中で私達に気づかない。


「(ダメ......!!乗っちゃダメ......!!!! )」


乗ってしまったら、きっと帰ってこれない。
なんとなく、そんな気がした。


ガブッ


パニックになった私は、咄嗟に相手の腕に噛み付いた。


「いっ...!?」


緩んだ手を素早く振りほどいて、これでもかってぐらい思いっきり頭突きをかます。


「ぐぇ......!? 」


完全に警官が私から離れた瞬間、ダッと駆け出した。


「あっ!ちょ、待ちなさい!!! 」

「(逃げなきゃ......!! )」


追いかけにくいように人混みにもぐりこんだ。人混みを抜けた後はもう後ろを見る余裕もなくガムシャラにただただ走った。
土地勘なんてないからとにかく走り回るしかなかった。
こう見えても生まれつき運動神経は悪くないと自負している。
私はあっさり警察官たちを撒くことに成功した。


撒いた後も私はとにかく走り続けた。
この異様な状況を振り払うかのようにただただ走り続けていた。

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