盲信排斥



 結局のところジェノスは俺の強さしか見ていないからいくらでも俺に尽くせるのだろう。強さで言えば俺の右に出るものはいないがビジュアルや頭のできなんかでは右に出るものばかりでジェノスもそのうちのひとり、なのに、俺が強い、ただそれだけの理由で俺を師と仰ぎ褒め称え心酔しぎらぎらとした崇高の眼差しを向けてくる。
 まともな奴ならすぐに俺がやたらと強いだけのハゲだって気づく。
 適当な性格にも、人より頭が悪いところにも、周りに馴染めないし馴染もうとしないなまけた精神にも気がつく。
 だけどジェノスはやっぱり俺の強さ一点しか見ていないから、俺の適当な言葉を都合よく解釈し、頭の悪さも策のひとつとして捉え、協調性のなさを高潔で孤独なサイタマせんせえという言葉できらびやかに飾る。
 よく見える目をつけてもらったにもかかわらずまるで盲目だこのサイボーグ。

 俺はサイタマせんせえの理解者です誰もほんとーのサイタマせんせえを見ようとしないせんせえはこんなにもこんなにも素晴らしいお方なのに、

 と、熱く憂いごうごうと宣うお前もまた、いやお前こそが、俺を見てはいないのだ。お前にとっての俺は、出会った日から今日までずっと、強さあっての俺なのだ。
 俺が強いからそばにいる。
 お前は強くなりたいから、そばにいられる。
 俺が強いから、好き。
 お前は強くなりたいから、好きでいられる。
 19歳の感情は単純で滑稽で実直で愚かで打算にまみれた自分の好意をきらきらと輝く純粋なものと信じている。
 だけど、俺にはそういう感情ぜんぶまるきり筒抜けだよジェノス。
 幾つ俺を褒め称える言葉があっても、ジェノスがそれらを真実だと訴えても、俺が強くなかったら、もしくは俺の強さを知らなかったら、ジェノスは俺に見向きもしなかっただろう。
 ジェノスは強さ以外、ほんとうはなにも欲しくないんだ。俺は強さしか取り柄がない、詰まらない人間だけど、ジェノスが望む強さを持っている。だからいま、ジェノスは俺を見ているのだ。けれどジェノスはそんなことにも気がつかず昨日も今日も、どうせ明日も「先生こそが」と俺の強さが、俺の本体であるかのように崇め称える。そして今後、もしもジェノスが、俺と肩を並べるほど強くなったら、サイタマせんせえは必要なくなる。それでもジェノスが俺の側にいるか、俺に尽くせるか、なんて、答えはどうしたところで否でしかない。ジェノスは必要な分の強さを手にいれたら脇目も触れず狂サイボーグの元へすっ飛んでいくのだろう。そうしてそれが終わればあとに残るのは「お世話になりました」という言葉だけ。きっとそうなのだ。ずっと見ていたからわかる。
 まぁ、ジェノスにはジェノスの、抜き差しならない強くなりたい事情というものがあるし、強くなるためならハゲの世話でもなんでもできるような愚直なやつなのだ。それに、なんでほんとうの俺を見ないんだと詰めよって己の純粋さを信じている年下を困らせるのは本意じゃない。
 ただ、恋をしている奴より恋をされているほうが盲目なのは、どうかと思うよ。お前が俺を理解しているなんて言うより、俺のほうがよっぽどお前を理解している。だって、それだけの視線をお前に、正しくお前だけに向けているんだから。そんなことにも気づかないなんてほんとお前は、まったく俺を見ちゃいないんだな。





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